秘密基地侵攻(21)
続きです。
息を止める。
目を見開く。
呼吸や瞬きですら、隙に繋がる。
だから、ここで一気に・・・・・・!!
二体のロボットはまだ同じ位置に固まっている。
完全に待ち構える姿勢だった。
私が来ると分かっている。
行くしかないと分かっているのだ。
そしてそのことは私自身もよく分かっていた。
だから・・・・・・。
空気を蹴って加速する。
光の海を全速力で泳ぐ、突っ切る。
一気に距離を詰める。
黒色の迎撃の刃が伸びる。
けれども体を逸らしてギリギリで躱した。
薙刀の刃が頬を浅く撫でる。
その場所が熱くなるのを感じる。
血液が伝うのを感じる。
今までゴローに預けていた痛みだった。
「うらぁぁああっ!!」
突き出された腕に沿うように、そのまま黒色の懐まで詰める。
黒色が何かするのよりも速く、身を翻した。
胴を捻って、力を溜める。
そして剣を弾き出すように振り抜いた。
黒色の装甲を刃が打つ。
損害は確認しない。
更にもう一撃を・・・・・・。
肩の関節を無理矢理回して、そのまま突きに移行する。
装甲の中央を狙った刃の先端は、ズボッと深く黒色に突き刺さった。
剣を抜き去るのと一緒に、その装甲を引き剥がす。
剣に装甲が刺さったままなので、剥き出しになった本体に拳を叩き込んだ。
「ぐぅ・・・・・・」
鋭い痛みが拳に突き刺さる。
それでも無理矢理押し出す。
すると、私の骨が砕ける前に黒色の骨組みがいくつかのパーツにバラけた。
しかしそこで黒色も追いつく。
上半身を捻って、遠心力に任せてその金属の塊の腕を振るう。
その腕に私の体はおもちゃみたいに弾き飛ばされた。
「んっ・・・・・・ふっ・・・・・・」
体に込めようとした力が歯の隙間から息になって溢れる。
私がどんなダメージを負っているか分からないが、少しでも力を入れようとすれば鋭い痛みが走った。
今の攻撃を派手に受けたことで、ゴローが異変に気付く。
ゴローにダメージが届かなかったからだ。
そして同時に、私が何をやったのかも理解したようだった。
「きらら! 約束!」
ゴローが激しく、子供を叱るみたいに声を張り上げる。
というか実際に私は叱られている子供なわけか。
ゆっくりと、ロボットたちが動く。
その眼光が、まっすぐにこちらを向いた。
震える唇をきつく結んで、奥歯を砕けそうなくらい噛み締める。
「・・・・・・んうっ・・・・・・!」
堪えようの無いくらいの痛みを無理矢理押しのけるように、ロボットの方へ跳んだ。
「きらら!! バカ! やめろ!」
ゴローの叱咤の声が降り注ぐ。
何が起きているのかに気づいたどらこちゃんが水槽を叩く。
とにかく何か異変を感じたのか、さくらはスバルに噛みつきそうな勢いで詰め寄っていた。
それでもロボットが止まる様子は無い。
だから私も止まるわけにはいかなかった。
まともに姿勢の制御も出来ないままに、ロボットの元へ突っ込む。
「だあぁっ!!」
体を動かすたびに、体内で熱いものが素早く駆け抜ける。
それは緩むことなく脳まで直接伸び、意識すら貫いてしまいそうだった。
それでも、痛みを感じることを厭わず剣を振るう。
声が喉を切り裂いて溢れる。
そうして放った斬撃は、どちらかの機体に確かに命中した。
もうどちらに当たったのかもよく分からない。
敵がどんな攻撃を繰り出しているのかもよく分からない。
けれどもほとんど反射で避ける。
時々当たる。
意地で耐える。
こっちも時々当てる。
攻撃の応酬が激しく、速い。
痛覚のある私だけが徐々に遅れを取っていく。
ゴローの叫び声が遠退く。
視界が端から黒く染まって狭くなる。
重力の無い空間で、だけども沈むような感覚に苛まれる。
それなのに体だけは忙しなく動く。
ああ、ダメなのに・・・・・・。
手足の感覚が希薄になっていく。
温度が消える。
それなのに痛みは深く突き刺さったまま。
どこからか流れてきた血液が、既に閉じてしまっている瞼の上を伝う。
こんなんじゃダメなのに、完璧からは遠いのに、沈んでいく。
意識と体の繋がりが希薄になる。
やがて意識が消える。
ブレーカーが落ちるみたいに、ぶつりと。
私は今、生きているのだろうか・・・・・・?
続きます。