秘密基地侵攻(14)
続きです。
カラカラと車輪の回る音が通路に響く。
先導するロボットの体はいつ目をやっても弱々しく、何もしなくても関節からポッキリいってしまいそうだった。
そんな体だ。
私たちの攻撃が届けば簡単に破壊できるだろう。
けれども、その体は薄いオレンジ色の障壁で囲われているから、それを破壊しないことには手が届かない。
また、そこまでしてこのロボットの本体に攻撃する意味もないのだった。
「ねぇ・・・・・・どこに向かってるのかな?」
そのナナフシみたいな細いロボットの後ろ姿を追いながら、小声でゴローに尋ねる。
「それは分からないニャ」
「少なくとも出口ではないわね。逃がすわけない」
さくらがゴローの言葉に付け足すように言う。
確かにその通りだった。
私たちは最初こそ侵入しているつもりだったが、今ではそうでないことを知っている。
私たちが出口を見失うのも、こうやって誘導されているのも、全ては相手の思う壺なわけだ。
ダメージを受ける前は、罠だろうがなんだろうが無理矢理突破すればいいなんて思っていたが、今では気が重い。
ゴローは今は復活しているが、宝石が受けた損害は今日中には回復しない。
そういう風に出来ているのだから仕方ないことだった。
『やぁやぁ、到着だよ。お疲れ』
車輪の音が止まる。
その声に、私たちの足も止まる。
目の前には、今までくぐってきたものと何ら代わり映えのしない扉がそびえている。
その扉は、そのロボットの影を検知し、私の心の準備なんか待たないで開いた。
特別重々しい動きでもなく、あっさりと。
扉の内側から、空気が漏れ出す。
私たちが立つ通路の空気と、扉の向こうに広がる部屋の空気。
この二つの空気に違いなんて無いはずなのに、空気が変わったのを感じた。
冷たい空気が足元を這い、くるぶしの辺りまでを満たす。
開いた扉の向こうには、溢れる無機質な光を遮るように背負う人の姿があった。
まるで寝癖みたいに外側に跳ねた髪。
気怠げな、しかし揺らぐことのない瞳。
一見すると男の子のようにも見えたが、その口から発せられた声はロボット越しに届いていたものと同じ、少し芝居がかったような女の子の声だった。
「やぁ、待っていたよ。ようこそ、僕の遊び場へ」
言葉と共に、私たちの入室を促すように正面からどく。
その瞬間、遮られていた青っぽい光が視界一杯に広がった。
「これは・・・・・・」
目の前に広がる非現実的な光景に息を呑む。
無数の画面と操作盤に囲まれた部屋の中央。
巨大な球状の水槽のようなものが、青い光に満たされて天井から無数のパイプによってぶら下がっていた。
想像を遥かに超えている風景を見上げる。
その全面ガラス張りの水槽の中には、二体の機械の巨人が浮かんでいた。
水色の巨人と黒色の巨人。
水色の方は口を開けたみたいにクチバシのような装甲を開かせ、銃口のようにも見える頭部を露わにしている。
それとは対照的に黒い方は硬く口を閉ざすように黒い装甲に頭部を覆われていた。
その二体はどちらも、上下左右の何にも触れることなく空間に浮いている。
ぶら下げる為のワイヤーや操り糸も見えない。
その景色に圧倒されて、よろめくようにして水槽に近づく。
さくらは一瞬それを引き止めようとするが、その手を引っ込めて私に並んで水槽の光の方へ向かった。
その姿を、私たちを出迎えた少女が満足そうに眺めている。
「これは・・・・・・すごいニャ・・・・・・」
腕の中のゴローも、思わず息を漏らす。
どらこちゃんは不安そうなみこちゃんを引き連れて、ノワールは入り口の女の子を一瞥して私たちのところへやって来た。
「少し怖いです・・・・・・」
「それは・・・・・・そうだな」
見上げるみこちゃんとどらこちゃんの顔が水槽の照明に青く照らされる。
その青い照明の所為で、また内側に浮いてるロボットの所為で、水槽の中に実際に液体が満ちているような錯覚をする。
しかし、ガラスの向こうに液体の重さを感じられない。
液体が入っていないと不自然なくらいの光景だが、実際にはその中を満たすのは空気。
二体のロボットは、その腕にまるで骨みたいな質感の薙刀のようなものを握って直立姿勢で浮いている。
この異様な風景と相まって、人型ロボットの細い手足が不気味に映った。
続きます。