秘密基地侵攻(11)
続きです。
「ねー・・・・・・次わたしぃ・・・・・・」
「うっさいわね・・・・・・なんだっていいでしょ・・・・・・」
あれからそれぞれの武器を用意して、もう今となってはいくつ壊したか分からないくらいの扉を破壊していた。
どらこちゃんはその灼熱の拳で、さくらは見えない蔓を触手のように操って、私はこの剣でもってして重い扉を打ち壊した。
ノワールに関しては能力の攻撃性能が低すぎて扉の破壊に至らない。
みこちゃんは特に破壊活動に参加するつもりもない様子だ。
それもそのはず。
私たちは本能に訴えかけて来る破壊の快感に酔い、目の前の扉を奪い合っていた。
「あー・・・・・・」
目の前で開きかけの扉が締め上げられ、金属が軋み悲鳴を上げる。
それは無理矢理加えられた力になす術なく捻れるようにひしゃげた。
「私の扉が・・・・・・」
そんなことを言ってしょんぼりしてみるが、特に順番などは決まっていない。
本当の本当に奪い合いなのだ。
扉を見つければお互いの肩をぐいぐい押して、二人よりも一歩でも前へと足掻く。
それは傍からみれば大変見苦しいものらしく、そうするたびにゴローの呆れる声とみこちゃんが困ったように笑うのが後ろから聞こえた。
「「はぁ・・・・・・」」
隣に居るノワールとため息が重なる。
競争に負けた私と、壊したくても力が足りないノワール。
負け犬に相応しい有様だった。
しかし虎視眈々と次なる扉を探すどらこちゃんの姿を見て、私も次へと気持ちを切り替える。
今度こそ破壊権を勝ち取る。
そう心に誓って、扉を求めて急ぐ二人の横に並んだ。
「あら? 立ち直ったの? まったく・・・・・・扉の一つや二つで一喜一憂しちゃって・・・・・・」
「そう言うさくらだってだいぶ執着してるじゃん・・・・・・」
確かこいつ初めは「頭悪い」だのなんだの言ってバカにしてたぞ。
それが今ではこうだ。
しかし私が競争に負けている以上、私の言葉はさくらにとって負け惜しみ以外の意味を持たない。
まったく効いていない様子だった。
その涼しげな横顔を見て、自分が壊せないにしてもさくらにだけは譲ってやるものかと意地になる。
実際、見ている分にはどらこちゃんのが一番派手でカッコいい。
扉が開く前に拳を打ち込み、そこから金属の扉がどろりと溶け落ちる様はそのオレンジ色の光と相まって綺麗ですらあった。
やっぱり見た目的には光るというところはポイント高い。
いや、何の話だと頭を横に振って雑念を振り払う。
そしたら扉を破壊したいという欲求がそもそも雑念であることに気づき、なんだか冷静になれた。
それと同時にその他の雑念も萎むようにして存在感を無くす。
「ちょっと・・・・・・何その顔・・・・・・?」
「え、どんな顔してた・・・・・・?」
さくらに言われて、輪郭をぺたぺた手でなぞる。
「なんと言うか・・・・・・虚無・・・・・・」
どうやら私から雑念を除くと何も残らないらしい。
「あ、扉発見・・・・・・」
どらこちゃんが少し先の方に固く閉ざされている扉を見つける。
そのドアを目で捉えても、破壊衝動は再燃しない。
すると二人も、私に引っ張られるようにして関心が薄くなっていた。
或いはタイミングがたまたま被っただけか、扉の破壊よりもその権限を奪い合い張り合うことに楽しみを見出していたのかもしれない。
「なんか・・・・・・みんな急に落ち着きましたね・・・・・・」
「子供っていうのは前触れなく突然冷めるものニャ。賢者タイムに似ている」
「賢者タイム・・・・・・ですか?」
「何でもないニャ。意味は聞かないで」
突然熱を失った私たちは、途端に扉の破壊が作業的になる。
誰が壊すのかで争わない。
なんなら譲り合ってすらいた。
話し合いの結果、どらこちゃんのやり方が一番手っ取り早いということになる。
確かに破壊までにかかる時間は一番短かった。
まぁ、溶けた鉄が冷めるまで少しかかるから穴をくぐるときに転んだりしたら悲惨だけど・・・・・・。
「よ、と・・・・・・」
それでも問題なくくぐり抜ける。
ゴローが尻尾の先端を焦がさないかと少し期待していたが、全員なんてことなく扉を抜けた。
そしてその扉を抜けた先。
広がった視界には、機械の目玉が映り込んでいた。
その目玉には見覚えがある。
「まぁ、そりゃこんなことしてれば流石に来るわよね・・・・・・」
さくらが扉を破壊して通って来た道を振り返って苦笑いする。
そちら側の通路からも浮遊する目玉が迫って来ているのが見えた。
そうなる可能性はみんな感じていたので、武器はしまっていない。
みこちゃんも今は自分が必要そうだと思ったらしく、ポケットから拳銃を取り出した。
浮遊する目玉の数を数えながら、ときどきさくらの方を見る。
みこちゃんの武器に対するリアクションが気になっての視線だったが、どうやら既に見せられているらしく別段驚く様子はなかった。
と、そんな風にしていると目玉をどこまで数えたか分からなくなる。
数え直そうともするが、すぐに無意味だと気付きやめた。
漂う目玉は今のところ攻撃の意思を見せない。
そもそも機械には意思は無いか。
ただその安定した飛行から見るに磁石は効いていなさそうだ。
「どうする・・・・・・?」
どらこちゃんがこちらを向いて、これらの処遇について尋ねる。
その答えは本人の中で既に出ているようで、ばっちりファイティングポーズをとっていた。
だから私もそれに同意して頷く。
「先手必勝! やられる前にやる!」
「あいあいさ」
さくらがやる気なさげに相槌を打つ。
しかしその瞳はしっかりと目玉の動きを追っている。
今私たちの持っている全てを、惜しむことなく引き出す。
今までの戦闘には無かった安定感が、そこにはあった。
続きます。