秘密基地侵攻(10)
続きです。
「あははは・・・・・・カメラに手振ってる。あの子たちがどう解釈したか分からないけど、まさか気づいても避けようとすらしないとはね・・・・・・」
狭いモニタールームにスバルちゃんの笑い声が響く。
その正面の画面には、こちら側に向かって手を振る額の広い少女が映っていた。
たしか名前は・・・・・・。
「まぁいっか・・・・・・」
名前が思い出せなかったことに対する弁明みたいな気持ちで呟く。
しかしその言葉の内容はまるで弁明めいていないのだった。
内容が無いよう。
じゃなくて・・・・・・!
脱線しかけた思考を頭を振って無理矢理戻す。
カメラに手を振るのにも飽きたのか、少女たちは再び歩き出していた。
確かにその足は一歩ずつ前に進んでいるが、その先にはまたいくつもの分かれ道が続いているのを私たちは知っている。
その中には正しい道もあるのだが、おそらくそれを選び取る可能性は著しく低いだろう。
まるで自作の迷路をそこら辺の虫に解かせているみたいな気分だった。
本人たちがいくら真剣に迷っていようと、正解を知っている私たちからは間抜けにしか見えない。
いや・・・・・・実際ただ闇雲に歩いているだけなのだから、間抜けは間抜けか。
やりようはあるだろうに。
私はその道に迷っている姿を見ていると焦ったくてしょうがない。
スバルちゃんのような悪趣味な感性は持ち合わせていないようだ。
ヒントの一つでも言ってやりたくなる。
「なんか・・・・・・全然だね」
「いつまでかかるんだか・・・・・・」
ユノの顔を覗けば、流石に退屈みたいで目を閉じて肩をすくめていた。
退屈の所為で、表情に感情の色が差し込む。
そっちが私のよく知る昔からのユノの表情だった。
やっぱりこっちの方がいい。
口には出さないけど。
妙な満足感すら覚えて、少し気分が良くなる。
そして、ユノからモニターに視線を戻そうとしたとき。
「わっ・・・・・・」
ずがーんと、ぐらつくような振動がやって来た。
少し重心がずれてよろめく。
ユノが肩を支えてくれたから別によろめく以上のことは起きなかった。
何かあったに違いないと、モニターに視線を向ける。
その画面には剣を持つ少女と壊れた扉が映っていた。
「これは・・・・・・」
「まぁ流石に彼女たちも考えたってわけだね。これからドアの総当たりが始まる。こうなったら見てても面白くないからおっさんを送るよ」
問えば、すぐにスバルちゃんが何かを諦めたように答えてくれた。
そこから「ドアじゃなくて壁に穴でも開けられたら部屋以外の場所にも繋がってしまうからね」と付け足す。
部屋。
そこでやっと始まるのだ。
私たちの捕獲計画と、スバルちゃんの研究が。
「じゃあ・・・・・・?」
ユノに支えてもらっていた体重をちゃんと自分の足で支えるように姿勢を正す。
「ああ、僕らも部屋に向かうよ。君たちも入れるのは初めてだね」
スバルちゃんはそう言って、端末を操作しいくつかの目玉のおっさんを向かわせる。
そしてモニターの電源を切った。
ヘッドホンを外し、椅子から立ち上がる。
そうして、ゆっくりと私の横を通って行った。
「着いて来な・・・・・・」
「どこへ・・・・・・?」
スバルちゃんは何も言わない。
なぜならそうする必要が既に無いからだ。
スバルちゃんが進んだ先に、モニタールームの隅に、床がスライドして隠し通路が現れる。
その暗い道の奥から、青白い光が這うように上ってきていた。
スバルちゃんは黙ってその中へと入っていく。
ユノも躊躇せずその後に続いた。
なんだか置いて行かれたみたいな気分になって、距離が開いているわけでもないのに勝手に足が急ぐ。
前を歩くユノの背中に張り付くようにして、隠されていた階段を下っていった。
そうしている間にも、ドアの破壊による衝撃が繰り返しやって来る。
その振動の大きさから、おそらくそこまで遠くはないことが分かる。
その事実に、少し気が重くなる。
争うことに慣れるには、後どれくらいかかるか・・・・・・。
少なくとも、少女たちがやって来るまでには慣れそうもなかった。
続きます。