秘密基地侵攻(8)
続きです。
「ほいほい・・・・・・彼女たちの侵入を確認したよ。ほんとにちゃんと水曜に来るんだから・・・・・・素直なもんだ」
そこでくるりと回転椅子を回して、スバルちゃんが私たちの方を見る。
舌を出すように、その続きを口にした。
「君たちと違ってね」
それだけ言って、また前に向き直る。
その正面にあるモニターには今まさに地下基地に侵入した少女たちの姿が映っていた。
「もう・・・・・・スバルちゃん、そんなこと言わないでよ」
笑いながら否定するが、その実私たちが素直ではないことは理解していた。
ユノは何も言わずに、画面を見つめている。
特に集団の中心辺りを歩く子・・・・・・蒼井きららに対して注意を向けているようだった。
それになんだかムッとして、わざと肩がぶつかる距離にまで近づく。
そうやってユノの視線を得ると、なんだか少し安心出来た。
「まぁとにかく・・・・・・僕が作った設備だ。多少好きにはさせてもらうよ」
チラとスバルちゃんがユノを見る。
「恐らく君達にも有益だからね・・・・・・」
「ああ、分かっているよ。期待している」
そう言うユノの声に、感情は滲まない。
平坦で、薄い。
その奥にあるものは私にも分からなかった。
答えを探すのを諦めるように、モニターに視線を戻す。
少女達はスバルちゃんのイタズラでいつもとは構造が違う通路を立ち止まって考える様子も無く歩いていた。
だがバッチリ道は間違っている。
「ねぇ、スバルちゃん・・・・・・この後どうするの?迷ってるけど・・・・・・?」
私たちは少女たちが部屋にたどり着いてからのことしか聞かされていない。
そこで蒼井きららの捕獲を行うこと、キ石を調べること、そしてアンチェインド・・・・・・ということについても調べるということ。
最初のが私たちの目的で、残りの二つはスバルちゃんが勝手にやると言っていることだ。
キ石は私たちのようないわゆるキラキラネームの子供たちに与えられた宝石を指し、そしてアンチェインドは・・・・・・実はまだ教えてもらっていない。
スバルちゃんはやたらめったら言葉を作るから、話を聞く側としては少しめんどくさい。
「ああ、大丈夫だ。もとより部屋以外には通じていないからね。存分に迷ってもらって結構だよ。扉を総当たりとかし始めたら流石に見てても面白くないからナビするけど・・・・・・」
思考は少し脱線したが、スバルちゃんの答える声ですぐに引き戻される。
侵入されているというのに、ペースは完全にこちらが握っている。
なんだか不思議な感じだ。
ただ罠に嵌めているという言葉を使えば、それは違和感なく飲み込めるのだった。
「スバルちゃん・・・・・・性根が腐ってるね!」
さっきの仕返しのつもりで、満開の笑顔で皮肉る。
「いやいや・・・・・・彼女たちに冒険を楽しんでもらいたいだけだよ」
だけれどスバルちゃんには全然効かない。
「まぁ僕も素直ではないかもね・・・・・・」
スバルちゃんは背を向けて、そんなことを小さな声で呟いた。
その声は軽くて、ころころしてて、やっぱり効いていないのだった。
続きます。