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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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秘密基地侵攻(1)

続きです。

 つい最近貰ったばかりの小型のリュックサックを背負う。

中には水筒、その他諸々。

もともと容量も少ないし、そんなに重くはない。


「気をつけてね」


 おばあちゃんが後ろから身をかがめてこちらを見る。

その手には帽子が握られていた。


 その帽子を私の前にぐいと押し出す。

私はそれを受け取って、浅く被った。

顔に帽子のツバの影がかかる。

そして、おばあちゃんの方を向いて、その顔を見上げた。


「行ってきます」


 風邪もすっかり治った。

宿題も少しは進んだ。


 そして、今日は遂に・・・・・・。


「ゴローちゃん・・・・・・きららをよろしくね」


「任せてほしいニャ」


 今日は遂に、秘密基地侵攻だ。




 それは丁度熱が引いてきて、もう明日からは問題なく活動出来るとゴローと話していた時の事だった。


 症状が軽くなってからは、ゴローの口から秘密基地侵攻の件について聞かされた。

私自身はすっかり忘れていたノワールのその提案。

どうやら私が風邪をひいている間に、みんなの間で承諾されたということらしい。

何よりも驚いたのが、ゴローがそれに同意しているということだった。


 まぁ、それは今はいい。

そんな話をしていたとき、さくらが私の家を訪ねてきたのだ。


 自転車で来たと言って、その鍵を握りしめて、汗だくで私の部屋にやってきた。


「どうしたの・・・・・・?」


 とりあえず念のためということで、私はまだ布団の中で病人をやっている。

ゴローはさくらのために飲み物を取りに行ったようだった。


「どうしたも何も・・・・・・あんたに話さなきゃならないことがあってね」


 顎に伝う汗を拭いながら、さくらが言う。

思い当たることはあった。

それもさっきまで丁度話していたわけだし。


「秘密基地侵攻のこと・・・・・・?」


 私が即答すると、さくらの肩が何かの支えを失ったようにガクッとなる。

その反応から、どうやら話題はそれで合っているらしかった。

せっかくこんな汗だくになって来てもらったのに申し訳ない。


「何・・・・・・あんた知ってたの・・・・・・」


 さくらがため息と一緒に項垂れる。

そうして入り口のすぐ前でどかっと座った。


「知ってたって言うか、思い出した。さっき丁度ゴローとその話をしてて・・・・・・。なんかごめん」


 体を起こして、枕を座布団代わりにする。

寝巻きのシワもちょっと直した。


「いや・・・・・・いや、いいのよ。勝手に来ただけだし。それに用はそれだけじゃないしね」


 さくらがそのまま腰を下ろした位置であぐらをかく。

靴下を履いていない足の指をぴこぴこ動かしていた。


「他の用件・・・・・・」


 なんだろう、と記憶を辿る。

しかし心当たりはなく、だからきっと私の中に答えは無いのだろう。


「あーと・・・・・・あー・・・・・・」


 さくらが何かを探すように自分の体を捻る。

しかし入室の時点でさくらは自転車のカギ以外何も持っていなかったし、何かが見つかる様子も無かった。


「ああ・・・・・・そうね。ちょっと待ってて・・・・・・」


「え、あ・・・・・・おぉ」


 何かを聞く時間も与えずに、さくらは立ち上がり駆け足で部屋から出て行く。

代わりにとばかりにゴローが入れ違いで入って来た。

そのゴローの首はすれ違ったさくらの方を向いている。


「あれ?さくらはどうしたのニャ?」


「分かんない。なんか忘れもの・・・・・・っぽい?」


「ふぅん」


 ゴローはそう言ってさくらの消えた方を気にしながら、手に持ったコップを載せたお盆を床に置いた。


 やがて、そう何秒も待つことなくさくらが戻って来る。

どうやら忘れものは家にしてきたのではなく、自転車のカゴに置いてきたみたいだった。


「待たせたわね・・・・・・」


 戻って来たさくらの手には、何かのお店の袋が握られている。

そのロゴには見覚えがあったけれど、何のお店だったか思い出せない。


「あ、麦茶持ってきたから飲むといいニャ」


「ありがと」


 ゴローに答えつつ、さくらは私の前まで向かってくる。

特に意味はないが、私はなんとなく体の向きを変えてベッドの上で正座した。


 その私を腕を組んでさくらが見下ろす。


「・・・・・・」


 見下ろして・・・・・・。


「おーい?さくらぁ?」


 見下ろしてしばらく固まっていた。

握られた白いビニール袋だけがぶらぶらと奔放に揺れている。


 思考停止していたさくらも、やがて動き出す。

多少ぎこちないながらも、そのビニール袋を私の胸に突きつけた。


「な、何・・・・・・?」


 そう言ってさくらの顔を見上げながらも、体はなんとなくその袋を受け取る。

私がそれを掴んだのを確認してから、さくらはビニール袋から手を離した。


「それ、あんたに・・・・・・その、プレゼント・・・・・・みたいな・・・・・・」


「私に・・・・・・?」


 今日は誕生日だったっけとカレンダーを見るが、私の誕生日が夏に訪れたためしはない。


「そう、あんたに。その・・・・・・必要かと思って」


 そう言って、顎でそのプレゼントを指す。

促されるままに、袋からその中身を取り出した。


「およ・・・・・・」


 出てきたのは・・・・・・カバンのような・・・・・・リュックのような、そんな荷物入れだった。

第一印象は肩ベルトも付いているし完全にリュックで、しかしそれは通常のリュックのイメージと比べるとコンパクトで薄い。

一言で言えば、背負うタイプのカバンって感じだ。

そんな道具の名前は残念ながら私の頭の中には記されていない。


「これは・・・・・・?てか必要って・・・・・・?」


「別にただのリュックサックよ。あんたの能力じゃ道具が必要でしょ?秘密基地に攻め入るときランドセル背負われたら流石に格好つかないじゃない」

「ああ・・・・・・」


 さくらの言葉に、やっと合点がいく。

秘密基地侵攻に備えてのことか・・・・・・。

でも・・・・・・。


「え、いいの?貰って?」


「その為に買ったのよ」


「・・・・・・それ、尚更貰っていいの?」


 お金とか、払わないでいいんだろうか。

思えば贈り物をされるという経験が少なかったし、いまいちどうすればいいのか分からない。

と言うかさくらには風邪のときにゼリーも貰ってたじゃないか・・・・・・。


「そんなに慌てることないじゃない・・・・・・」


「慌ててないやい!」


「そこはどうでもいいのよ・・・・・・」


 とりあえずは貰ったリュックを体の前に抱えたまま、さくらの言葉を待つことにする。

さくらは麦茶を一口で飲み干して、喉を潤わせてから口を開いた。


「とにかく、あんたの為に買ったんだから、むしろ貰ってもらわないと困るわよ。安物だし、そんなに気にすることもないわよ」


「う、うん・・・・・・」


 それならということで、とりあえず背負ってみる。


「・・・・・・」


 揺すってみる。

そして・・・・・・。


「どう・・・・・・?」


 最終的な評価はゴローとさくらに求めた。


「どうって言われてもね・・・・・・」


 さくらのリアクションはもっともで、だから私もそれを受けて笑った。


 しかしと再び背中を揺すってみる。

荷物がまだ入っていないからかもしれないが、軽く、すんなりと馴染む。

背中が蒸れることもなく、なかなかにいい感じだった。


「ふむ・・・・・・」


 私が感触を確かめていると、ゴローが遅れて感想を言う。


「似合ってるニャ。あ、嘘。流石に寝巻きには似合わないニャ」


 言われて、確かに寝巻きには似合わないなと思う。

しかし確かにランドセルより小さいし軽いし、使い勝手はかなり良さげだ。

容量も少ないが、用途を考えると十分過ぎるくらい。

完璧だ。


「ふふん・・・・・・」


 どうよ、と背負ったまま胸を張る。

早速何か入れてみたい気持ちになるが、今はその気持ちをリュックにしまっておいた。


「ありがとう。これは・・・・・・うん、いい感じ・・・・・・」


 こういう奴の褒め方ってよくわからなくて、すごいふわっとした感じになる。


「ランドセル代わりに使いたいくらい!」


 付け足したらより陳腐になった。


「あー・・・・・・と、そうじゃなくて・・・・・・」


 あれじゃないこれでもないと考えているうちに、さくらがため息を吐いて、そして笑う。


「別に無理して褒めることないわよ。あんたを見てればよく分かるんだから。ね、ゴロー?」


「そうだね。確かにそうニャ」


「もぉー何さ・・・・・・もしかして私馬鹿にされてる?」


 わざとらしくいじけると、二人がもっと笑う。


「ふ・・・・・・そんなこと、ないわよ・・・・・・」


 言いながらも笑っていた。

ほんとに馬鹿にされてるかもしれない。


 でも、と改まる。

リュックの肩紐に手を添えて、もう一度礼を繰り返す。


「ありがとう、ほんとに。嬉しい」


 そう言うと、さくらは遅れて恥ずかしそうに目を逸らした。

やがてその表情は少し得意気なものに変わる。


「どういたしまして」


 こうして、私の大切なものが一個増えたのだった。

続きます。

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