最大風速(29)
続きです。
「ゔぁぁぁ!」
ゴローと一緒に女の子を担いできた道を引き返す。
容赦なくアンキラサウルスの攻撃は降り注いだ。
「おい!きらら!」
どらこちゃんの声に走りながら振り向く。
見れば、アンキラサウルスはどらこちゃんをほったらかして私の方を向いていた。
アンキラサウルス体中の水を右腕に集中させ、巨大な拳を作る。
体の大きさとは明らかに不釣り合いな右腕を、私に向けていた。
「なんでさ!?」
「なんでって・・・・・・それは明白ニャ・・・・・・」
文句を言いつつも、せっせこ走る。
丁度みこちゃんの隠れている壁の向こうに滑り込んだところで、その脇を拳がロケットさながらで通り過ぎた。
「あっぶな!死ぬかと思った」
「今のダメージ蓄積分だと、割と普通に死ねるラインニャ」
ともあれ当たらなかったのだから、一安心だ。
ばっちり女の子も回収したしね。
「ありがとうございます。ほんとに・・・・・・ほんとにありがとうございます!」
みこちゃんは手に握る拳銃も放り出しそうな勢いで、女の子に飛びついた。
まぁ友達なんだからそりゃ心配だったろう。
「いや、みこちゃんが居なかったらこのタイミングでこの結果はまずあり得なかったよ」
「いいんだか悪いんだか微妙なラインだけどニャ・・・・・・」
「あはは・・・・・・」
少し意地悪なことを言うゴローにみこちゃんが苦笑いする。
後はこのまま全員無事で帰れれば万々歳だ。
元々、救出のためにアンキラサウルスの相手をしていた訳で、今となっては逃げてしまっても・・・・・・いいのだろうか。
「今度は何考えてるニャ?」
「いや・・・・・・ね」
このアンキラサウルスを野放しにしておいたらどうなるか分からない。
それこそこの近くにある民家にだって被害が及ぶだろう。
「おい!お前ら・・・・・・!!」
どらこちゃんの叫び声に、意識が引き上げられる。
もうどらこちゃんは叫んでばかりで声をからしていた。
「どうし・・・・・・」
言いかけて、遮られる。
私たちが姿を隠していた塀が、積み木を崩すみたいに簡単に崩れたのだ。
「みこちゃん・・・・・・先に・・・・・・!」
咄嗟にみこちゃんの背中を押す。
その背中を押した後、飛び散る塀の破片、瓦礫を避ける為に私はみこちゃんとは逆側に飛びのいた。
私は受け身も取れずに水の溜まった土の上を激しく滑るが、みこちゃんは私の言葉をしっかり受け取り女の子を抱えたまま車に向かって走って行った。
「きらら!はよ立て!!」
どらこちゃんの声に急かされるが、ドロ塗れの体は未だ勢いを殺しきれない。
咄嗟に顔だけを上げると、再び塀を砕いて伸びる巨大な水の拳が鼻先までやって来ていた。
「まず・・・・・・」
立ちあがろうとするが、間に合わない。
地についた手のひらが、土に沈む。
体を持ち上げようとする指は、ぐちょぐちょに湿った土に食い込むだけだった。
思っていた程、衝撃は無かった。
しかし、気づいた時にはゴロー共々握り拳の中。
水に溶け出したドロが、私の目の前に線を引くだけだった。
続きます。