最大風速(27)
続きです。
大量の水を含んで肥大化した腕を避け、時折落ちてくる水の球を破り、そして近づく度にその体を切りつける。
どらこちゃんは殴りつける。
その度に炎が弾けた。
けれども、アンキラサウルスの体は焼けも爛れもしない。
降り続ける雨で体を潤し、万全を常に保っていた。
「やっぱりこの攻め方じゃダメか・・・・・・」
「そうみたいだが、しかしどうすれば・・・・・・」
このままでは勝てないと分かっていても、私もどらこちゃんも未だ戦い方を見つけられていなかった。
「せめて、こう・・・・・・固形ならよかったんだけど・・・・・・」
相手が液体である以上、刃はすり抜けるだけ。
その指先を薙ぎ払おうが、決して分断することは出来ない。
そういった攻撃が効かないなら熱で攻めるほかないと思われるが、火力が足りていなかった。
鍋いっぱいの水を沸かすのだって時間がかかるのだ。
あんな大きさの水の塊が一気に蒸発する様なんか想像も出来ない。
「やっぱりドリルの方がまだいいかなぁ・・・・・・」
握った柄から伸びる赤熱した刃を見る。
最大火力で行けば、穴を開けるくらいは出来ると思う。
が、しかし一瞬だ。
使い切りだからその次に続くものはない。
不定形である相手はすぐに開けた穴を塞ぎ、そして降りしきる雨を吸収する。
そのことを思えば、ドリルすら戦況を左右することは出来ない気がした。
ならば、それ以外の決め手を見つけなければならない。
分かっていたことだが、やはりそれしかないように思えた。
最早何の意味もないだろうが、アンキラサウルスの胴を切りつけながら、どらこちゃんに接近する。
「どらこちゃん・・・・・・もっとこう、どかーんって感じの技ないの・・・・・・?」
元々考えるのはあまり得意じゃないし、だったらということで丸投げしてみた。
「そんなこと言ってもこれじゃなぁ・・・・・・」
籠手をガシャガシャ。
既に装備は、そんな大技を放ったら完全に壊れてしまいそうなほど亀裂が走っていた。
「うーん・・・・・・」
もちろん実際壊れてしまうかどうかは別の話で、だったらという気持ちもある。
しかしその可能性がある以上、危険を負わせられない。
「ほんとに・・・・・・アイツが固形ならなぁ・・・・・・」
切っても切れないし、殴っても砕けないやつだから攻めあぐねている。
無いものねだりばかりが捗った。
アンキラサウルスの攻撃を掻い潜っているうちに、再びどらこちゃんとは距離が開く。
どらこちゃんの結んだ髪が、アンキラサウルスの体の向こうに消えて行った。
アンキラサウルスの正面がどらこちゃんの方を向き、私に背中を向ける。
もう大して脅威にすら思われていないのかもかしれない。
「あーあ・・・・・・」
それでも水球は相変わらず降り注ぐ。
見えてもいないのにしっかり狙いは外さないなんてずるいと思ったが、そもそも水だから目がないかと向いている方向なんて関係ないことを理解した。
目がないのに、なんでも見えるなら尚更ずるい。
再び、私の頭上に影が被さる。
また水球かと思って飛び退き、爆発に備えて防御姿勢をとる。
しかし、衝撃と波はやって来なかった。
「・・・・・・あれ?・・・・・・おわっ!?」
不思議に思って、交差させた腕の隙間から覗く。
その目に映ったものに驚いて、軽く飛び跳ねた。
空を飛び交っていたはずのアメンボ。
それが落下して来たのだ。
いきなり落ちて来たそれはしばらく足を小さく動かしていたが、やがてキラキラ粒子になって散った。
目の前のことに気を取られて唖然としていると、再び別の場所にアメンボの死体が落ちて来た。
その流れは途切れる事なく続く。
次々と殺虫剤でもばら撒いたみたいにポトリポトリと落ちてくる。
「何だ何だ?」
突然のアメンボの大量死に、どらこちゃんも疑問の声を上げるのが聞こえた。
何もしないのに、アメンボが勝手に死ぬことなんかない。
だとすれば・・・・・・。
「まさか・・・・・・みこちゃん!?」
みこちゃんはお母さんとの約束があるわけで、自分でもその発想が信じられない。
けれど、それ以外考えつかなかった。
「みこだ・・・・・・!」
その答えを、どらこちゃんが叫ぶ。
そのどらこちゃんは、アンキラサウルスの水の体の向こうで、少し離れた建物を指差していた。
自然とそちらに視線が向かう。
そこには、黄色い雨ガッパを身にまとい、壁に背を張り付けて・・・・・・。
そうして拳銃を構えるみこちゃんの姿があった。
続きます。