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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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最大風速(25)

続きです。

『それじゃ、これから作戦開始だよ。集中して』


 阿形の四肢に降り注ぐ雨は、当然搭乗者の私には届かない。


 ユノも、私も、既に指定された位置について作戦の開始を待っていた。

目玉のおっさんの位置調整とか、結構大変だったらしい。

私たちには関係無いけど。


 コックピット内に表示される仮想モニターは全部で三つ。

ユノとの連携用と、スバルちゃんの連絡用、そしてもう一つはアンキラサウルス「ウィンドシェル」の姿を映している。

ユノのモニターにはしっかり顔が映っているが、スバルちゃんのモニターには本人の代わりに、デフォルメされた電車のぬいぐるみが映っていた。

ライトが目になっていて、芋虫を彷彿とさせるフォルムだ。

売っているのを見たことがないけど、ちょっと欲しい。


 スバルちゃんはぬいぐるみの姿を借りて、話し続けた。


『作戦内容は説明した通り。周囲に小型のアンキラサウルスが居るのは調査済みだが、正直何が起こるかは分からない。臨機応変に頼むよ』


 小型のアンキラサウルス。

道中でも見たが、アメンボの姿をしたアンキラサウルスだった。

阿形からすればただの虫同然。

作戦には影響しないものと思われた。


 おそらく問題となってくるのは、ウィンドシェル本体の能力。

硬い殻で身を包み、さらにそれを暴風域で守っている。

そのことから、風を操る能力を持っているであろうことは容易に想像出来るが、それ以外は逆に全くの未知だ。


「ほんとに・・・・・・無茶言ってくれるよ」


『機材の提供、君のプロデュース、基地の建築・・・・・・。他にも僕が振られた無茶はたくさんあるからね。ここぞとばかりに無茶振るさ。根に持ってるからね』


 かわいいぬいぐるみから聞こえてくる言葉は、その見た目に似合わず可愛くない。

ぬいぐるみの後ろに、いつも通りヘッドホンを付けて私たちには分からないような作業を進めるスバルちゃんの姿が映り込んでいた。


『まぁ、いいじゃないか。こっちとしても脅したみたいなものだからね』


 ユノが涼しい顔をしてそんなことを言う。


「それって・・・・・・ユノがでしょ・・・・・・」


 私は・・・・・・まぁ、加担してはいるけど、実際無茶はアイドル計画くらいしかさせてない。

アイドル計画だって、最終的にはユノの為のものだし・・・・・・。


『まぁ無駄話はこれくらいにして・・・・・・。さっさと作戦を始めないとどうなるか分からないんだから。流石の僕でも対処しきれないことがあるんだから』


「もともと無駄話を始めたのは・・・・・・あ、私かぁ・・・・・・」


 何故この話になったのかの記憶を辿ったら、数分前の私が居た。


『さて、これから目玉のおっさんからワイヤー付きの楔を射出する。構わないね?』


『ああ』


「分かったよ」


 いよいよ、と言った具合に場の空気が真面目に塗り替わる。

仕事の時間だ。


 ウィンドシェルの撃破は、私たちに大量の恩恵をもたらすことになる。

ここまで大規模なアンキラサウルスは史上初。

保有するキラキラ粒子も尋常じゃない。


 目玉のおっさんから送られている映像が、ゆっくりと動き出した。


 目玉のおっさんの視線が、ウィンドシェルの周りを回る。

暴風域に立ち入っている所為で、その映像は上下左右に揺れていた。


『武装展開。射出まで四、三、ニ・・・・・・』


 スバルちゃんのカウントが、ゼロを告げる。

それと同時に、映像が乱れ風にたわむワイヤーが映った。


 やがてそのワイヤーはピンと張り、目玉のおっさんは視界の中央にウィンドシェルを収める。


 その殻には、トゲのようなものが食い込みヒビが入っていた。

そのヒビは広がり、亀裂となる。


『甲殻の破断及び、ワイヤーの固定を確認。これより剥離に移る』


 スバルちゃんのその言葉を聞いた瞬間、雨風には全く揺れなかった阿形が何かの衝撃に揺れた。


「うわっ・・・・・・何・・・・・・!?」


 凝視していた画面から視線を外し、状況を確認する。


 衝撃によろめきながらも機体を見れば、その腕に足に胴体に、水が膨れ上がるようにしてまとわりついていた。

その水の塊はアメンボを形作る。


 ユノの様子も気になって吽形の方を見ると、ユノの方も同じようにアメンボにまとわりつかれていた。


 私が状況を把握しきる前に、スバルちゃんの声が響く。


『気付かれたみたいだ!事前に調査したものとは異なる種だ。サイズが全く違う。気をつけてくれ!』


「気をつけるったってどうやって・・・・・・」


 文句を言いながらも、体から引き剥がし、牙で突き刺す。

しかし体が水で出来ている所為か、その鋭い先端が体を貫通してもなんともなかった。


「こいつぅ・・・・・・」


 おまけにかなりしつこく、剥がしても剥がしてもまとわりついて来てキリがない。

数も水溜まりから湧き出すようにして増えているようだった。


「ユノ!大丈夫!?」


 牙も使って、アメンボたちを振り払いながらもユノの状況を気にする。

ユノはいつも通りの声色で冷静に答えた。


『ミラ。このアンキラサウルス全てを支配するとしたら、どれくらい保っていられる?』


「分かんないけど・・・・・・たぶん一瞬。サンダーバードのときも操れたのは少しの間だけだったし、この数は・・・・・・」


『一瞬あれば十分だ。投げられる』


 ユノは牙を振り払いながら、そう言った。


「投げられるって・・・・・・そりゃ投げるのは出来るけど」


 今回の場合は狙った場所にという条件付きだ。

この環境で、投擲武器が真っ直ぐ飛ぶはずもない。


 しかし、このアメンボたちに邪魔されては狙いなどつけられるはずもない。

なら、本当に私の能力が生み出す一瞬しかないのだ。


『一応投擲に関しては機体の方で勝手に補助が入る。それでも時間はかけた方がいいが・・・・・・まぁ仕方ない。あんまり目立ちたくないが、最悪奥の手もある。その一瞬にかけてくれ』


「また無茶を・・・・・・」


 もうなんだか笑えて来てしまう。

まぁ最初から予定通りに行くとも思っていなかったけれど・・・・・・。


『君たち・・・・・・だいぶ暴れてるけど、気をつけてくれよ?そこまで大きい体じゃないけど、木造建築とか簡単に壊せる機体だからね』


 戦う上でそれなりに広い場所は選んでいるが、それでも建物はちらほらある。

これらも基本的には壊さぬよう立ち回らなければならない。


 アメンボと戦っていると、突然ウィンドシェルを映す映像が途切れる。

それと同タイミングでスバルちゃんが叫んだ。


『暴風域拡大!暴風域の目玉のおっさんが全て破壊された。済まないが映像が途切れる。今追加で送っている!』


 スバルちゃんは謝るが、正直ありがたいと思ってしまう。

少なくとも今この間は、アメンボだけに集中していられる。


 地を泳いだり、空を飛んだりしているアメンボたちを牙で薙ぎ払う。

足で踏み潰す。

一旦は液体になっても、またすぐにアメンボの形に戻った。


 やがて私の視界を塞ぐように、頭部のカメラにアメンボがしがみつく。


「あ、やば・・・・・・」


 外部の状態が、全く分からなくなる。

そうしている間にも、アメンボの頭部がぶくぶくと泡立つように変形を始めた。


「今度は何・・・・・・?」


『ミラ、大丈夫か?』


 ユノの声が届くが、ユノは自分の身を守るのに精一杯で私に手を貸すことが出来ない。


 アメンボを頭から剥がそうと、左手を持ち上げる。


 しかし、その腕が届く前にアメンボの変形は終わった。


「な、これって・・・・・・!?」


 その姿に、驚愕する。


 水で形作られているだけあって、多少作りは荒いが、その姿には見覚えがあった。

いや、見覚えがあるどころの話じゃない。


「これって・・・・・・ユノ・・・・・・?」


 変形したアメンボの頭部はユノの姿をしていた。


 水で出来たユノが、頭部のカメラに抱きつくように腕を伸ばす。

その妙な気味悪さに、胸がどきどきした。


 あっけにとられていたが、我に帰ってアメンボを引き剥がす。

すると、ほかのアメンボも同じように姿を変えていた。


「ちょっと!これ絶対スバルちゃんの所為だよね!」


『いや、これは・・・・・・こんな時だがすごく面白いよ。どうやって情報の共有を・・・・・・いや、初めからアンキラサウルスは一つなのか・・・・・・?』


 対するスバルちゃんは、私が咎めようがなんだろうが全く気にする様子がない。

興奮気味で何かぶつぶつ言っていた。


『まぁ構わないよ。姿が変わっただけだ。やることは同じだよ』


「そうだけど・・・・・・」


 ユノの言った通り、姿が変わり後は腕が使えるようになったくらいだが、やっぱり仲間の姿をしていると少しやりづらい。


『大丈夫だよ』


 ユノの声が、混乱した頭の中に一本の糸のように張り詰める。

視界がいくらか明瞭になった気がした。


 色々と整わないままだが、やるしかない。

私たちの未来の為に。


「・・・・・・分かった」


 深呼吸でスイッチを切り替える。

最初より少し重みを増した牙を構え直した。

続きます。

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