最大風速(12)
続きです。
朝日が昇る・・・・・・が、もちろん天気は雨だ。
今日が台風なわけで、昨日のは・・・・・・昨日のは結局何だったんだ?
カーテンの隙間から外を見ると、ゴローが私の隣でヒゲをピクピクさせていた。
部屋には既にみこちゃんの姿はない。
どらこちゃんは完全にベッドから落ちて、今は床で眠っている。
朝起きたら隣に顔があってビックリだった。
「やっぱり・・・・・・何か・・・・・・」
「ゴロー・・・・・・?何やってんの?」
「いや・・・・・・」
窓際から離れないゴローを不審に思うが、とりあえずは部屋を出た。
ゴローも隣に並ぶ。
リビングに向かえば、電気は問題なく点いていて、その照明の下でみこちゃんとそのお母さんが朝食を摂っていた。
テーブルに並ぶのはトーストとサラダ。
パン派か・・・・・・と、内心で呟いた。
「あ、早いですね」
「今きららちゃんの分も用意するよー」
「あ、はい・・・・・・。ありがとうございます」
首筋を掻きながら、パンを咥えてキッチンに向かうお母さんの姿を見送った。
「どらこちゃんは・・・・・・まだ寝てました?」
「うん、まだ」
寝起きの目を擦って、みこちゃんの隣の椅子を引くとそう聞いてきた。
私が答えれば「まぁ、そうですよねぇ」という表情でみこちゃんはトーストに齧り付いた。
朝食を終える頃になってようやくどらこちゃんも目を覚ます。
私がみこちゃんの着せ替え人形にされているときだった。
「お、やってんね」
「やられてるー」
されるがままで、どらこちゃんに答える。
どらこちゃんは面白そうにしながら、朝食を断っていた。
みこちゃんがあれやこれや服を持って来て私の前に並べる。
ちゃっかりゴローもスカートを中心に持って来ていた。
人の洋服箪笥漁るなよ・・・・・・。
「いやぁ・・・・・・あたしもやられたよ、最初は・・・・・・」
まぁサイズが合わなかったけどね、と自分で汲んだ水を飲みながらどらこちゃんが笑う。
私はあーだこーだ言われながら、アリスのことを思い出していた。
今頃彼女はどうしているのか・・・・・・。
あの自信満々の笑みは、今でも忘れることなく記憶に焼き付いていた。
「出来ました!」
「出来たニャ!」
しばらく身を任せていると、やっと完成する。
黒い意思が働いて、案の定スカートを履かされた。
「なんか・・・・・・人の服借りるのって落ち着かないね・・・・・・」
いつもよりスースーする太ももを擦り合わせる。
昨日もパジャマは借りていたが、こう・・・・・・なんか違うじゃん?
ともかく、スカートも含めてこの服装は落ち着かなかった。
台風だって言うのに、ニュースばっかりが騒いで部屋の中ではのんびりした空気が流れる。
こんなんでいいものなのか・・・・・・。
壁の向こうには災害があって、だけれどそんなことも忘れてしまうくらいこの中は平和だった。
そりゃもうニュースに申し訳ないくらいに。
そう言えば何か大切なことを忘れている気がする。
何か、なんだったか・・・・・・。
「んー・・・・・・?」
「何唸ってんだ?」
頭を悩ませるが、特に何も思い出せない。
台風の所為で気が散っているということにして、思い出すのを放棄した。
何もすることはなく、何か出来ることもなく、まったり時間が流れていく。
特に何を食べたというわけでもないのに、あんまり何もしないものだから、太りそうだと、そう思った。
このまま、台風は問題なく過ぎていく。
この時は誰もがそう思っていた。
いや、もしかしたらゴローだけは・・・・・・。
「ゴロー・・・・・・どうしたの?今朝からずっと外を気にしてる」
「いや・・・・・・何でもないニャ。何でも・・・・・・ないといいんだけど・・・・・・」
またヒゲがピクリと揺れた。
続きます。