最大風速(7)
続きです。
部屋に入ってきたお母さんの頭からは雨粒がポタポタ垂れてくる。
自分の足跡がついていないか気にしながら、頭にタオルを乗せてやって来た。
「いやぁー、濡れた濡れた・・・・・・」
そうは言うが、車で送っただけでそんなに濡れるだろうか。
「興味本位で外に出てみたけど・・・・・・やぁー失敗だったね。風もびゅーびゅー吹いてて大変だったよ・・・・・・」
「お母さん・・・・・・」
みこちゃんが呆れた様子で、お母さんに駆け寄る。
そのまま二人で洗面所に消えて行った。
「こりゃあたしはまた泊まりだなぁ・・・・・・。ま、最初からそのつもりだったけど」
「どらこちゃんはどらこちゃんで慣れすぎ・・・・・・。何、家庭環境が複雑で帰りたくないの・・・・・・?」
「きらら・・・・・・そういうことはあんまり聞くもんじゃないニャ」
「聞かなきゃ分かんないよ・・・・・・」
ゴローに叱られて、ちょっと拗ねる。
バツの悪い気持ちを誤魔化すように、テーブルにうつ伏せになった。
そこから見る景色には、座るどらこちゃんがうつる。
どらこちゃんは仕方なさそうに笑っていた。
「はは・・・・・・別にんなこたないよ。ただ・・・・・・なんだ?なんでこんなに居座ってんだろ・・・・・・。ま、それはいいか。でも、まぁ今みたいのは気をつけるべきだと思うぞ?たぶんな」
「はーい・・・・・・」
テーブルの下で、足の指を擦り合わせる。
それをどらこちゃんが優しく踏んづけた。
「すみません。待ってました?」
みこちゃんが洗面所からとたとた戻って来る。
それにどらこちゃんは手招きだけして答えた。
遅れてお母さんもやって来る。
さっきとは服装が変わっていた。
頭のタオルも一回り大きなものに変わっている。
「いやいや・・・・・・こりゃ、ちょっとしんどいね。どらちゃんはまた泊まってく?」
「はい・・・・・・そのつもりで。あとその呼び方はちょっと引っかかるんでやめてくださいって」
「なーんでぇー?いーじゃん。ウチに置いてる服にポケットつけたげよっか?」
「お母さん・・・・・・」
ニヤニヤしながら、頭を拭く。
そうして私の隣の椅子に座った。
「きららちゃんはどうする?」
横から伸びて来た手のひらに、頭をわしゃわしゃされる。
頭をぐわんぐわんされながらも、声を出した。
「私は・・・・・・とりあえず帰れるなら帰る方向で・・・・・・」
あまり心配をかけるわけにもいかないし、単純に迷惑だろう。
「なるほどね。て言うことは泊まってもいいわけだ」
「えぇ・・・・・・そうなる・・・・・・?」
「まぁまぁ・・・・・・冗談、冗談」
いまいち冗談に聞こえないのだけれど・・・・・・。
ゴローが窓の外を見に飛んで行く。
今の空模様を確認しに行ったのだろう。
ゴローは屋根からボタボタと絶え間なく落ちる水滴を見て、難しそうに唸っていた。
「結構酷いっしょ?」
みこちゃんのお母さんがゴローの方を向いて言う。
それにゴローはゆっくり振り返った。
「これは・・・・・・今日は泊まっていくのが賢明そうニャ」
「えっ・・・・・・うそ、そんなに?」
ゴローがあんまり真面目に言うものだから、少し気になって私もゴローの隣に並ぶ。
確かに天候は悪化しているようだが、それ程激しく変わっているようにも見えない。
「これなら・・・・・・帰れる、くない?」
まだ昼過ぎだが、外はすっかり暗い。
分厚い雲が渦巻くように空を覆い、弾丸のような雨粒を放っていた。
「そう・・・・・・かもしれないけど、なんだか変ニャ・・・・・・」
「変って・・・・・・何さ・・・・・・」
ゴローのヒゲがピクピク揺れる。
雨は変わらず、激しく窓を打った。
「まぁ、猫ちゃんもそう言ってることだし」
両肩に背後から手が乗せられる。
振り返るとニッと口角を上げたお母さんの顔があった。
どうやらもう決まってしまったようだ。
家のことも気になるが、ゴローの言うことも少し引っかかる。
「分かった・・・・・・そうする・・・・・・」
私が観念するのを、みこちゃんたちが面白そうに覗いていた。
続きます。