最大風速(3)
続きです。
球が完成して、粘土の魚も泣く泣く潰してケースに戻した。
粘土板は机に置いたまま。
そして、日付は変わった。
さくらに電話をかけて、連絡を回してもらう。
問題無く知らせは回り、そして問題無くみこちゃんの家に集合することになった。
みんな私たち以外で遊ぶ人居ないのだろうか。
「・・・・・・それはキミも同じニャ」
「余計なお世話だ!」
「だからそれはキミにも・・・・・・」
「という訳で完成しました!」
みこちゃんの家。
清潔に保たれたみこちゃんの部屋で、球をポケットから取り出した。
部屋には既に三人とも集まり、各々のびのびと過ごしていた。
どらこちゃんがみこちゃんの机の椅子に座っているのは何故なのか、肝心の本人は床に直接座りどらこちゃんの顔を足の間から見上げている。
さくらはクーラーの真下に、私は出入り口のすぐ近くに腰を下ろしていた。
みんなの視線が集中する場所に、三つの球を乗せた手のひらを突き出す。
「あ・・・・・・」
その球は一個だけ手のひらから転がり落ちてしまうが、みこちゃんがそれを拾った。
「これ・・・・・・ですか?」
みこちゃんが親指と人差し指で球を掴んで眺める。
その視線は半信半疑といった感じだった。
他の二人も、私の手のひらから球を摘み上げていく。
「ただの・・・・・・ビー玉・・・・・・?」
「なんか、あんまり・・・・・・あんまり、よね・・・・・・」
手にとって球を透かしてみたりしているが、それで何かが分かった様子はない。
「ほんとに使えるのかニャ・・・・・・」
「ちょーちょー・・・・・・ゴローまでそんなこと。信用無いなぁ・・・・・・」
「ある意味信用あるわよ」
「ある意味じゃダメなんよ」
何だかあんまり評判が良くなさそうだ。
まぁこんな見た目じゃ確かに大したものには見えないだろう。
というか本当に機能するのだろうか。
「あの・・・・・・きららちゃん表情の推移が・・・・・・」
「分かりやすいな。自信無くなったろ」
どらこちゃんが球を指に挟んで回転させて笑う。
みこちゃんも申し訳なさそうに笑った。
「まぁ実際に試してみればいいじゃないの」
「そ、そう!そうだよ!さくらもたまにはいいこと言うじゃん」
「それはきららにとって都合がいいことという解釈でいいのかしら・・・・・・」
「いや・・・・・・あの、うん・・・・・・」
さくらの言葉にますます自信が無くなる。
これで上手くいかなかったらどうなるのだろう。
「まぁ・・・・・・その、とりあえずどうぞ・・・・・・」
若干おどおどしながらさくらの方に手を差し出して言う。
試される側ということで、目を合わせることが出来なかった。
さくらが低姿勢な私を楽しむように大袈裟に頷く。
球を手に握りしめ、ゆっくりと瞳を閉じた。
クーラーの大して大きくもない駆動音が場を満たす。
みんなは息を呑んでその光景を見守っていた。
さくらが息を止めて、握る手に力を込める。
そして片目を開いた。
「で・・・・・・出来た?」
自分の唾を飲み込む音が顎の下で鳴った。
運命の瞬間に息が詰まる。
そして、さくらは手のひらを開いた。
その手のひらには変わらない姿の球が転がっていた。
「え、えっと・・・・・・成功?失敗?」
みこちゃんが、目の前の光景に困惑する。
どらこちゃんも眉をひそめて、首を傾げていた。
さくらが静かに、厳かに告げる。
「これ、どうやって使うの・・・・・・?」
「ん・・・・・・?は・・・・・・?」
強張っていた体の力がガクッと抜ける。
どらこちゃんは物理的に開いた口が塞がらなかった。
「えと・・・・・・」
「やり方教えなさいよ」
「あ、うん・・・・・・」
私の足の上に降りてきたゴローを抱えて、唖然として頷いた。
続きます。