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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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最大風速(2)

続きです。

 机の下で、足を何度も組み直す。

足の指でくるぶしを掻き、その指で何度も畳の目をなぞった。


 どれくらいの時間が経ったか分からない。

そして机の上の粘土板の上には遂に・・・・・・。


「・・・・・・出来たぁ・・・・・・!」


「そんなやり切った感出さないで欲しいニャ」


 せっかく成し遂げたというのに、ゴローの反応は冷たい。

せっかくの気分もぶち壊しだ。

それもそのはず、出来上がったのはそれはもう最高にかっこいい何か・・・・・・その、何だか種類の分からない魚だった。


「ゴローのご飯に」


「泥団子の進化系的な?」


「そうそう・・・・・・」


「ふざけんな」


 粘土板の黒板みたいな緑の海を、巨大な魚が泳いでいる。

私にしては超大作だった。

提出先が無いのが残念なくらい。


「手くせー・・・・・・」


 長時間粘土をこねくり回していたので、その匂いが染み付いている。

臭いと口では言っているが、そんな嫌な匂いでもなかった。

決していい匂いではないが、癖になる感じだ。


「もうそろそろ夕ご飯ニャ。どっちにしたってその手じゃ食卓につけない。キリのいいところまでいったら手を洗いな」


「今!今、キリいいじゃん・・・・・・!」


「まぁ・・・・・・キリは、いいけど・・・・・・いいのかニャ・・・・・・?」


 苦い表情をしながらゴローが魚に目を落とす。


「・・・・・・これが例のモノとかそういう・・・・・・」


「そういうアレじゃないね」


「・・・・・・渡すのは台風の後かニャ。この時間を宿題に使えば・・・・・・」


 ゴローが私を置き去りにして悩み出す。

私の宿題そんなにマズかったっけと思ったが、そう言えば最後に問題集を開いたのはいつだ・・・・・・?


「まぁまぁ・・・・・・それは置いといて・・・・・・」


「そうやって置いておくことが出来ないから困ってるニャ・・・・・・。キミ、夏休み最終日泣くよ?」


 夏の風物詩に最終日の溜まった宿題も加えようか。


「まぁ宿題の話はいいから・・・・・・」


 さぷらーいず、と机の上に三つの球を転がす。

少し濁ったビー玉みたいなもので、触るとうっすら冷たかった。


「よくないニャ・・・・・・それで、コレは・・・・・・?」


 まだ宿題の話を引っ張りながらゴローが球の正体を問う。

私はそれに出来るだけ淡々と答えた。


「例のモノ」


「え・・・・・・例のって・・・・・・例の・・・・・・?」


 ゴローが驚いて球を二度見する。

サプライズな感じのリアクションは遅れて訪れた。


「そう、出来た」


「出来たって・・・・・・いつの間に・・・・・・」


「わりと最初の方で・・・・・・なんか出来た」


「なんか出来たってそんな・・・・・・」


 そう、なんか出来てしまった。

たぶんこの球の材料が粘土だと言っても信じる人はいないだろう。


 魚のヒレに引っかかっている球を一つずつ摘み上げて、手の平で転がして見せた。


「じゃじゃーん。すごいでしょ」


「い、いや・・・・・・すごいけども・・・・・・じゃあ今までの時間の大部分は・・・・・・」


「魚だね」


「魚かニャ・・・・・・」


 何だかあっさりと出来てしまったので、私としても拍子抜けだった。

そして私の指達はまだ粘土に触れていたいと言っていたのでこの魚を作ったわけだ。


「この時間を宿題に使っていれば・・・・・・」


 ゴローがふらふら宙を舞い、蚊取り線香に落とされたみたいにポトリとベッドの上に落ちる。

何だか想定と違うサプライズの仕方をされてしまった。

サプライズというか、絶望と言った方が適切かもしれない。


「まぁ、これで明日渡せるよ。その時に宿題は写させて貰えばいい!」


「たぶん何だかんだみんないい子だから写させてくれないと思うニャ。万一見せてくれるってなっても絶対そうさせないニャ」


 ゴローが呪いのようにぶつぶつ呟く。


 ベッドの上で全く身動きせずに呪詛を唱え続けるゴローに枕で蓋をした。


 そそくさ部屋を立ち去ろうとすると、呪詛が枕ごと背後に迫ってくる。


「わ、分かったよ・・・・・・。とりあえず渡したらゴローの計画通りに宿題やるから・・・・・・」


「ちゃっかり計画は人任せかニャ・・・・・・」


「え、えぇ・・・・・・」


「まぁ、それはいいニャ。ただ、絶対ニャ。絶対計画通りにやりなよ?」


 枕の後ろから、ゴローの鋭い眼差しが私の心臓を撃ち抜いた。


 これは、なかなか厳しい戦いになりそうだ。


 悪霊に憑かれたみたいな重さ・・・・・・というか圧力を肩に感じながら夕飯へ向かう。

まるで最後の晩餐に向かうような、そんな重たい気持ちだった。

続きます。

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