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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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最大風速(1)

続きです。

 夏の風物詩と言われたら、まず最初に何を思い浮かべるだろうか。

スイカだったり海だったり、風鈴とか水着とか・・・・・・色々あると思う。

ただ今の私なら、間違いなくこう答えるだろう。


 ベッドの上に座って、窓の外を覗く。

いつも通りの午前の景色が広がっていた。


「本当に来るの・・・・・・?」


 眩しい陽光に目を細めながら、電線に止まる小鳥を目で追った。


 私が唐突に言い放った独り言ともとれるその言葉を、ゴローが拾う。

ふわりふわりと窓のそばまでやってきた。


「夏は結構逸れることも多いらしいけど・・・・・・どうかニャ・・・・・・。まぁニュース通りなら・・・・・・」


 どこから聞こえてきてるかも分からないセミの声が、開けた窓から入り込んでくる。

一週間前とは違う声のはずだけど、違いは分からなかった。


 夏。

長期休暇ももう後半戦。

相変わらず暑くて、相変わらず蒸していて・・・・・・何も変わらないようだけれど、日本には台風が迫っていた。


 私の中で、夏の風物詩の一つに台風が含まれている。

何だかんだで雨戸を閉めた薄暗い部屋で、凄まじい風の音を聞きながら騒いでいるのが好きだったりするのだ。


 しかし、今は・・・・・・。


「どうしよっか・・・・・・あれ」


「まぁ、急ぐことも無いニャ。台風が過ぎてからでも・・・・・・」


 机の上に転がる粘度を指差す。

私たちの発明・・・・・・って呼ぶのも変だけど、それの材料に選ばれたのは粘度だった。

なんか・・・・・・こう、素材感があるから自由度高そうだなって・・・・・・。


 ともかく台風が来るとなると、その日は外に出られなくなる。

だから、その前に作って渡すか、それとも後で渡すかというところで悩んでいた。


 確かにそう急ぐことも無いのだけど、今はもう一つ話さなければならないことがあるし、早く済ませたい気持ちもあった。


「ともかく!渡すとしたら明日までに渡さないとニャ。そうしたいならそれまでに完成させないと」


「それはそうだけどさぁ・・・・・・」


 粘度を用意して二時間くらい経っただろうか。

最初は粘土板を探すところから始まって、その後は久しぶりの粘土だったのでちょっと遊んでいた。

今も作品もどきは机の上にある。

そして、今。

絶賛飽きていた。


 机に向かっていじいじしていた間は楽しかったし、何時間でもやっていられそうだった。

しかし、一旦お菓子を食べに机を離れたらもう机には戻れなくなっていた。


 やれば楽しいだろうし、また集中モードにもなれると思うのだが、なんとなく体を動かすのが億劫だった。


 扇風機の強さを一段階上げて、ベッドにうつ伏せになる。


 もう何だか大体暑さの所為な気もする。

この怠さ、やる気の出ないこの感じ・・・・・・。


「きらら」


「なぁにぃ・・・・・・?」


 溶けながらゴローの呼びかけに答える。

汗ばんだ膝裏を中指で掻いた。


「そう言えば・・・・・・キミ、あの時何でも言うこと聞くって言ったよね?」


「あ・・・・・・あぁ、言ったかも・・・・・・」


 何となくゴローの魂胆を察する。

たぶんここで「今だらけてるようならやりなさい」とそう言うのだろう。

別にそこまでしないでも・・・・・・。


「・・・・・・その、だニャ・・・・・・」


 ゴローはこちらを向いて、言いづらそうに尻尾を揺らしている。

一体何をそんなに言い淀むことがあるのだろうか・・・・・・。


「え、ゴロー何言おうとしてる・・・・・・?」


 少し不安になって、起き上がる。

どうも思っていた内容と違うみたいだ。

一体何を言うのかと待っていると、ゴローはその続きを口にした。


「その・・・・・・たまにはボクもわがままをってことで・・・・・・その・・・・・・ニャ?」


「・・・・・・な、何?前置きが長いよ・・・・・・」


 あんまり言いづらそうにするから、余計不安になる。

一体何を言われるのか、何をやらされるのか・・・・・・全く想像もつかなかった。


「その・・・・・・たまには、スカート・・・・・・履いて欲しいなって・・・・・・」


「・・・・・・え?」


「だから、スカートを・・・・・・!」


「えぇ・・・・・・」


 なんでわざわざそんなことを・・・・・・しかもこのタイミングで・・・・・・。


「えっと・・・・・・何?パンツを見るチャンスが欲しいの・・・・・・?」


 微妙に私のお尻の方を見ているゴローにやや引く。

咄嗟に視線を手で遮った。


「あぁ・・・・・・そういうのじゃなくて・・・・・・」


「じゃあどうゆーのさ・・・・・・。あれ?男はズボンで、女はスカートじゃないとダメって言う・・・・・・あれ?」


「そう言うアレでもないニャ・・・・・・。てかそんな風に思ってる人って実際に居るのかニャ・・・・・・?」


「いや、知らんけど・・・・・・」


 珍しくどもっているゴローに新鮮さを感じながらも、半ば呆れる。

何言ってんだこいつって感じだった。


「これは・・・・・・まぁ、単純な好みニャ!そっちの方が好き!なんか、揺れるものが欲しい!」


 もうやけくそなのか、語気を強めて最大風速でまくし立てる。

その言葉に滲む熱量に更に引いた。


「男って・・・・・・」


「実際男ってこんなもんニャ」


「男に謝れよ・・・・・・」


 男の所為にして逃げようとするが、これは間違いなくゴローの好み全開だろう。


「何・・・・・・?揺れるものって、なんかヒラヒラしたやつがいいの?」


 尚、名前は思い浮かばない。


「いや・・・・・・知らないニャ・・・・・・」


 ゴローはそう言うが、おそらくそれ周辺の好みに関して覗くのが自分でも怖くなったのだろう。


 ベッドから降りて、タオルケットを引っ張る。

それを捻って無理矢理短くしながら腰に巻いた。


「ど、どう・・・・・・?」


「どうと言われてもニャ・・・・・・」


 どうしてくれんだ、この空気感・・・・・・。

居た堪れないというか、お互いに困惑していた。


「あー・・・・・・とりあえず、なんか今ので恐怖を感じたからスカートは無しで。別のにして」


「じゃあ、宿題やりな」


「別ので・・・・・・」


「じゃあ・・・・・・粘土・・・・・・?」


 遅れて訪れた・・・・・・というか無理矢理持って行った予定調和。


 タオルケットを床に捨てて机へ向かった。


 粘土板に乗る湿った粘土をぺちりと叩く。


「・・・・・・さっきのは忘れて欲しいニャ」


「努力する・・・・・・」


 ひとまず、今なら作業は捗りそうだ。

続きます。

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