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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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夜に這う獣(11)

続きです。

「あー・・・・・・」


 瞼の奥の疲労が、熱に溶けていく。

疲れてはいるがなんだか目が冴えてしまって、眠くはなかった。


「・・・・・・あぁー」


 帰ってきて用意した湯船に、肩を沈める。

ユノから逃げ帰った後、私たちは汚れた体を流すために入浴していた。


 本当ならお湯を張るまではしなくてよかったのだが、ノワールも居ることだしそれを言い訳にして湯船に浸かっていた。

ノワールは結構綺麗好きなのか、石鹸で体を洗っている。

柔らかそうな肌色に、白い泡がアクセントになっていた。


 浴槽の縁に腕を乗せ、その上に顎を乗せる。

私が動くと、温めのお湯が波だった。


「ねぇ・・・・・・ノワール?ユノって一体何が目的なの?」


 改名戦争に勝ちたいだけなら、ケガを負わせる必要は無い。

かと言って特別な理由もなくそんなことをするような人には見えなかった。


 ノワールがシャワーの栓を捻る。

降り注いだお湯が、泡を洗い流した。


「私はそれを知っていたはずなんだがね・・・・・・。今はもう分からない」


 ノワールの体を伝う雫が風呂場のタイルを打った。


「私たちにとって・・・・・・人類にとって、ユノは救世主だと思っていた。進化だ。それを彼女は与えてくれる、と思っていた・・・・・・」


「進化・・・・・・」


 ノワールの言った言葉を繰り返す。

私にはよく分からなかった。


「進化って・・・・・・進化してどうすんのさ・・・・・・。てか、私たちの進化って何さ・・・・・・?」


「さぁね・・・・・・。ただ、私は進化が欲しかった。・・・・・・それ以上の何かもあったような気もするが、思い出せない」


 ノワールの口ぶりは私に説明するというよりは、自分で整理するというような感じだった。

だから私もよく分からないまま。


「ふーん・・・・・・」


 目を瞑って、息を吐く。

体から力が抜けて、出来た隙間には湯船の熱が流れ込んだ。


 ノワールがシャワーを止め、こちらへ向かってくる。

浴槽の縁を跨いで、私の隣に腰を下ろした。


 ノワールが入ったことで、その分のお湯が浴槽から流れ出る。

それはタイルの隅に残った泡を攫って排水口に吸い込まれていった。


 薄目のまま、ゆっくりと首の角度を変える。

すると、私と同じような姿勢をしたしかし顔は正面を向いているノワールが目に入った。


「あ・・・・・・そーだ。後で、あの・・・・・・あれ触らせてよ」


 目玉のドローンを呼び寄せた、あの携帯もどきのことを思い出す。

このままじゃ怒られ損だし、やっぱり少し興味があった。


「ああ・・・・・・あれか・・・・・・。あれならどこかで落としたよ」


「えぇっ!?落としちゃったの?ダメじゃん!バリア張れないじゃん!」


「どの道三十秒使い切ったじゃないか」


「え・・・・・・だって、一日三十秒とか、そう言うのでしょ?」


 浴槽の縁から体を離し、今度は後ろ側に背中を預ける。

ノワールは目だけを動かしてそれを見ていた。


「いいや、三十秒きっかりの使い切りだ。もとより使わせるつもりもなかったのだろう・・・・・・」


「えぇ・・・・・・マジか・・・・・・」


 物珍しかったし、今後もバリアが使えるなら色々と役に立つのだが・・・・・・。

これからも使えるものだと思っていただけに残念だ。


「そんな顔をしないでも・・・・・・。まぁ、そうだな・・・・・・」


 ノワールは何かを考える仕草をする。

解いた髪の毛先が、湯船に垂れた。


「これでお前も無関係ではいられない。まぁ元から狙われてはいたが・・・・・・ともかく、君は完全にユノと敵対したわけだ」


「は・・・・・・?はぁ・・・・・・」


 ノワールが悪巧みするように言うが、その真意は見えない。


「きらら、君も目玉のおっさんを使えるかもしれないよ?」


「目玉のおっさんって・・・・・・あの、アレ・・・・・・?」


「ああ、そうだ。百鬼夜行。ユノが保有する機甲部隊。誰が作ったんだか知らないが、目玉のおっさんもその一つだ。そして今、あいつらはもっと凄いものを作っている」


 ノワールは勿体ぶるように言う。

こっちとしてはさっさと話して欲しい。


「もっと凄いものって何さ?」


 聞くと、その言葉を待っていたとばかりにノワールはざばんと立ち上がった。

跳ねたお湯が顔にかかる。


「秘密基地だよ。そして私はその場所を知っている。そこから機甲を盗めるかもしれない」


 ノワールが言ったその言葉を呑み込むのに時間がかかる。

何を言っているかはよく分かったし意味も分かったが、分からなかった。

理解を拒んでいた。


「はぁ・・・・・・?何それ、嘘でしょ」


「なわけ」


 ノワールは自分のことでもないのに鼻高々と胸を張る。

なんだかよく分からない方向に進んで行っている気がする。


「つまりぃ・・・・・・?」


「徹底的にやろうじゃないか。君には仲間も居るし、発明もしようとしているんだろう?ならば、その発明品を使って戦えばいいじゃないか」


「え・・・・・・えぇ・・・・・・?」


 話の大きさに困惑する。

確かにユノとは敵対したわけで、ならば衝突は避けられないのだろうけど・・・・・・。

基地に忍び込んで、ロボットを盗むなんてそんな・・・・・・。


「二人とも・・・・・・いつまで入ってるニャ?」


 突然、風呂場の戸の曇りガラス越しにゴローの声が響く。

ガラスに二つの肉球が張り付き、小さな影が揺れた。


 その声に、ノワールが湯船から上がる。


「この話は、また今度だ。お仲間もいた方がいいだろう」


 そう言い残して、ゴローが居るのも気にせずに風呂場を出た。


「おわっ!?ちょ、児ポ・・・・・・服着、いやちょっと、何してるニャ!?」


「お前こそ何をしている。騒がしい」


「騒っ・・・・・・」


 ガラス越しに騒がしい声を聞く。


「あぁ・・・・・・」


 その騒がしさに、ため息が漏れる。

私も湯船から出て、二人の音が去るのを待った。

続きます。

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