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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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夜に這う獣(7)

続きです。

 ブランが倒れていたあの場所に、意味も無くやって来ていた。

もう何度目だか、それも分からない。


 当然、そんな場所で待っていたって犯人が戻って来るとも思っていなかった。

でも、私はこうやって待つことでしか自分を納得させられなかった。


 雲の上の月は、青白い光を地上に注ぐ。

カエルの声の中で、溶けた月光がひび割れた道路の上をたゆたう。

生暖かい風が足首をくすぐった。


「まぁ、来ないな・・・・・・」


 夜になっても点灯することのない街灯に寄りかかり、息を吐く。

視界の隅で小さな虫が揺れた。


 さっきから蚊の羽音も聞こえている。

家を出る時に虫除けはつけてきたが、その効果ももう薄れてきたらしい。


 街灯から背中を離し、首を鳴らす。

込み上げてきた欠伸を呑み込み、現場に背を向けた。


 すると、当然鼻先に光が弾ける。


「これは・・・・・・!」


 まるで蛍のような淡い光。

しかしその光の粒の色合いから蛍ではないことは一目で分かる。


 その粒子を握りつぶして、後ろに居るであろう誰かに話しかける。


「まさか来るとは思わなかったよ。それとも私が待っていたのを知っていたのかい?」


「・・・・・・」


 返事は無い。


「・・・・・・まぁ、それはどうでもいい。おまえ・・・・・・逃げるなよ?」


 次から次へと湧き出る光の粒を払い除けるように、振り向く。

淡い光の向こうに見えたのは、見覚えのある少女だった。


「ユノ・・・・・・様・・・・・・?」


 軽い頭痛に似た感覚を覚える。

真実が疑わしくて目を擦ってみるが、何度そうしてもそこに居るのはユノ様に見えた。


 月の光と同じ色に輝く髪が、緩い風に揺れる。

風に乗って髪の淡い光が流れては弾けた。


 夜の闇の中で色の白さが際立つ肌。

その表情は微塵も動くことはなく、静かな瞳で私を見ている。

滑らかな白い指は、その指には到底似合うとは思えない無骨な鉄パイプが握られていた。


「はぁ・・・・・・なんでこんな・・・・・・」


 ブランを襲った張本人の下についていた自分が情けなくなる。


 頭を抱えて、行き場のない感情を腹に溜める。

怒りとも悲しみとも言えないその感情に、目がチカチカする。


 私が待っているのを知っていた、それもあながち間違いではなかったのかもしれない。

百鬼夜行はユノの目。

いつか自分が言った言葉だ。


 ずっと見張られていたのか?

何のために?

仲間なのに・・・・・・?


 いや、違う。

はなから仲間などではなかった。

だから私たちも見られていたし、ブランもやられた。

最初から、使い捨て・・・・・・。


「ふざけるな・・・・・・」


 頭から、ゆっくりと手を離す。

だらりと垂れた腕は、空気に溶けていくようだ。


「ふざけるな・・・・・・!」


 顔を上げて、まるで私のこともブランのことも何とも思っていない様な涼しげな顔を睨みつける。

こちらに吹く風に逆らって、私の能力である分身を飛ばした。


「・・・・・・」


 ユノは静かに、立っている。

その余裕ぶった態度が気に食わなくて、私もまた分身の後を追った。


 棒立ちのユノに、私と分身の挟み撃ちで迫る。


 何がユノ様だ。

何が救世主だ。

こんなやつが・・・・・・。


「ブランを・・・・・・よくも・・・・・・!」


 憎しみに歯をむき出しにする。

自分の手のひらを握りつぶす勢いで拳を作る。

私の拳と分身の拳。

その二つがユノの体に接触する寸前で・・・・・・ユノが消えた。


「はっ・・・・・・」


 瞬間、視認できない凄まじい力に体が吹き飛ばされる。

作り出した分身は紫色の液体になって爆ぜてしまった。


 頭の中を音が転がる。

その音と同じ向きで、私の体も道路の上を転がった。


 ざらついた路面に手を伸ばし、指で押さえる。

勢いを殺そうとするが、指が道路を滑るばかりだ。

爪を立てても、めくれるばかりで役に立たない。


 そして転がる私の体はつま先が地を捉えることでやっと止まった。


 急いで顔を上げるが、目の前に突き出された鈍色の輝きに思わず尻餅をつく。


 突きつけた鉄パイプを目の前で、挑発するようにユノが揺らす。

ユノはゆっくりと、そのパイプを振り上げた。


 パイプの丸い曲線が月と重なって鈍く輝く。

息を吐く間もなく重い衝撃音が響いた。


 しかし、体に衝撃はない。

キ石があるとはいえ、衝撃は緩和されない筈だ。


 咄嗟にとった意味を為さない防御姿勢を解く。


 見ると、ボディガード然とした黒いスーツを纏った筋肉の塊が鉄パイプを両手で押さえ、ユノを押し倒していた。

そのボディガードの頭は・・・・・・。


「ね・・・・・・こ?」


 猫のぬいぐるみ。

見覚えのある間抜けな顔。


 そこにさらに小さな足音がやってくる。

やって来た少女・・・・・・私のターゲットだった蒼井きららが寝巻きで立っていた。


 走って来たのか、薄ら汗を浮かべて呼吸も乱れている。

きららは膝に手をついて、愚痴るように吐いた。


「やっぱ、力あるじゃん・・・・・・」

続きます。

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