夜に這う獣(5)
続きです。
アライグマの睨みつけるかのような視線とボクの視線が交錯する。
動物同士、平和的に解決出来ないものだろうか。
「に、にゃおーん・・・・・・」
「・・・・・・」
「う、うにゃにゃ・・・・・・」
「・・・・・・」
「なるほど・・・・・・」
コミュニケーションはとれそうにない。
アライグマは逃走姿勢をとって、真っ黒な瞳でこちらの様子を窺っている。
そして・・・・・・。
「逃げたニャ・・・・・・!」
目の前から一目散に駆け出した。
もう匂いを追う必要もない、その後ろ姿を睨んで飛ぶ。
アライグマは俊敏で、器用に障害物を避けて駆ける。
ただボクにかかれば、その後を追うのは容易だった。
角までアライグマを追い詰めると、柱にしがみつき上方に登る。
それを追うと、小さな空間を抜け元の位置まで戻ってきた。
本当にどこがどう繋がっているのか分からない。
駆け回るアライグマを目で追って、タイミングを見計らう。
すると、床(天井)の一部から光が入って来ているのが見えた。
それは、ボクが入って来た入り口で間違いなかった。
「ちょ、きらら!?閉めといてって言ったよニャ!?」
下側から間延びした声が響く。
「今閉めるとこぉー・・・・・・脚立持って来たん。届かなかったから」
その言葉を聞いて、きららの身長を思い出す。
というか小学生であの高さに素で届くものは居ないだろう。
初めからボクが入って追い払う算段だったからすっかりその要素を失念していた。
起こってほしくない事態と言うのはこういう時に限って起こるもので、軽やかなフットワークでアライグマは光の穴に向かって行く。
「きらら!そっちに行くニャ!」
「え・・・・・・えぇ!?」
アライグマには追いつけるが、止める術を持たない。
ここが開いていて、そしてそこにアライグマが来てしまった時点で詰みだったのかもしれない。
見つけた逃げ道にアライグマは迷うことなく飛び込んで行く。
「わっ・・・・・・あっあっ・・・・・・ちょ・・・・・・あっ、だぁぁあっ!!」
軽い足音に続いて、きららの叫び声と脚立の倒れる音が聞こえた。
「あー・・・・・・」
穴から頭だけ出して下を覗く。
下に落ちても結局出口が無く慌てふためくアライグマが部屋を散らかしているのが見えた。
きららは倒れた脚立の上で、手をついて立ちあがろうとしている。
「何というか・・・・・・悲惨ニャ・・・・・・」
机の上からいつのかも分からないプリントが埃と一緒に舞った。
続きます。