夜に這う獣(4)
続きです。
暗がりの中、辺りを見渡す。
屋根裏には埃や、何だか正体の分からないもので汚れていた。
端の方には砂岩の粒のようなものが転がり、いくつか蜂の巣の残骸があった。
「ゴロー・・・・・・どーおー?」
下からきららの籠った声が届く。
その声色は呑気なもので、軽く退屈すらしていそうだった。
「まだそれらしい姿は見えないニャ。ただ・・・・・・」
ボクの嗅覚は間違いなく獣の匂いを捉えている。
「あ、きらら!僕が入ったところは閉めておいてほしいニャ!そっちから逃げられると出入り口が分からない」
「あ、確かに・・・・・・」
言葉のすぐ後に、ドタバタと騒がしい音がする。
退屈しのぎにはならないだろうけど、まぁこれで寝落ちは避けられるだろう。
尻尾で埃っぽい空気を撫でる。
少し頼りなく感じる木材をなぞるように、恐る恐る進んで行った。
こうして見ると、屋根裏の構造というのも中々複雑だ。
隙間が無いようで、ところどころにある。
「ここは・・・・・・どこに・・・・・・」
今まで過ごして来た慣れ親しんだ家だが、屋根裏となるとどことどこが繋がっているのか案外分からない。
ともかく今近くに居るはずだし、早いところ見つけたいのだが・・・・・・。
概念の目をつぶって、嗅覚に意識を集中させる。
猫だから為せる技だ。
研ぎ澄まされた嗅覚は、微かな匂いを可視化する。
不確かな痕跡を、確かな、目で追えるものとして再構築した。
「・・・・・・いけない。あまり視覚情報に依存するのは良くないニャ」
視覚情報に依存しすぎているのが人間の弱さだと思っている。
見てばかりなのは、見えないものを疎かにする原因となる。
「まぁ・・・・・・これは嗅覚の延長か・・・・・・」
ただそれを分かり易くしただけ。
とりあえずはそう言う風に誤魔化して置いた。
可視化された匂いが、キラキラと分かり易く輝く。
隙間風に少し揺れるが、木に張り付いた匂いは揺らぐことはない。
「結構・・・・・・結構ニャ・・・・・・」
屋根裏の至る所に、匂いの帯が出来ている。
濃淡は様々だが、その中でも一際強く輝いているものを見つけた。
「新しいニャ・・・・・・」
そろりそろりと、匂いをたどる。
それは小さな隙間へと伸びていた。
体が触れないようにその隙間を通り、狭い空間に体をねじ込む。
すると、あからさまな音がボクの耳に届いた。
「近づいてくる・・・・・・!」
言っている間にも、獣は姿を現す。
「これは・・・・・・ハズレ、ニャ・・・・・・」
考え得る最も最悪な相手。
可能性の中では大きな体を持つ部類で、そして凶暴。
灰色の体毛を逆立てて、縞模様の尻尾を揺らす。
顔には邪悪なアイマスク。
こちらを威嚇するように小さく開いた口からは、鋭い牙が覗いていた。
考え得る最悪の可能性、アライグマだ。
続きます。