黒の再来(5)
続きです。
ノワールがみこちゃんに渡されたお茶をあおる。
飲む勢いがすごくて、ペットボトルの中からボコボコ音がなっていた。
どうやらだいぶ喉が渇いていたらしい。
まぁ夏に長袖のそれも黒い服を着ているから、きっと暑いのだろう。
あっと言う間に、ペットボトルが空になる。
ほんとに一本丸々飲み切ってしまった。
「いや・・・・・・すまない」
ノワールが口元を拭う。
突然現れたかと思えば、私を殴るだけ殴って少女はこの部屋に居座っていた。
「えっと・・・・・・」
「あれ?まだ話すことある?」とゴローに視線を送る。
そうするとゴローは慌てて最初からこちらを向いていなかったかのように振る舞った。
「まだ何か・・・・・・ありますか?」
みこちゃんが空のボトルを受け取るついでにさりげなく聞く。
どらこちゃんがノワールにがっつり見える位置で親指を立てた。
「ん?いや・・・・・・もう話すことはないが?」
そう言って上着を脱ぐ。
下には半袖の白いティーシャツを着ていた。
脱いだ上着を腰の周りに巻いて落ち着く。
落ち着いて、眼帯の下の目を指で擦っていた。
「いや帰んなさいよ・・・・・・!」
さくらが我慢出来ずに突っ込む。
が、ノワールが動じることはなかった。
「うん、そうだな・・・・・・」
そう言いはするが、行動には移さない。
服をパタパタしながら、暑さに顔を顰めていた。
さくらが私の頭の上に腕を乗せてもたれかかる。
「これは手強いわね・・・・・・」
「まぁまぁ・・・・・・」
みこちゃんが宥めるように言うが、効果は薄かった。
帰らないノワールに、散らかった部屋。
今日も自由研究は進まなそうだ。
「茶漬けでも出すか?」
どらこちゃんが冗談を言うが、それで帰ってくれるなら喜んで出したいところだ。
頭を揺らしてさくらを落とす。
熱の塊がべちゃっと離れた。
「ともかく・・・・・・君たちではないのだろう?私とてずっと居座るつもりもないさ。だがな・・・・・・」
「だが・・・・・・?」
何を聞いたわけでもないが、ノワールが説明を始める。
足を組み直して続きを待つ。
「暑いんだ、すごく。今の時間、暑いんだ」
ノワールがクールぶって顔を手で扇ぐ。
何かその言葉に隠された意味的なサムシングがある気がして勘繰ってみるが、どうやら言葉以上の意味は持たないらしい。
勝手にやり切った感を出しているノワールの表情がそれを物語っていた。
「あほらし・・・・・・」
さくらが呆れて押し入れの襖に背中を預ける。
私も全身の力を抜いて倒れてしまいたい気分だった。
てか、そうした。
「て言うか・・・・・・あんたはどこに帰んだ?この前みこ監禁してたところ、家じゃねんだろ?」
「そうだね。あれはあの時限りの仮の拠点さ。私の家は秘密だ。教えるわけないだろ」
どらこちゃんの質問に、ノワールがそう答える。
「私は自分の家一方的に知られてるの気持ち悪いんだけど・・・・・・」
「それは私が話す理由にはならんよ」
もう早く帰らないかな、この人。
「ああ・・・・・・それと、さっきの話は聞かせてもらったよ。君たちが何を企んでいるのか、マルっとね」
「あ」
そう言えばこいつまだ倒してないのか・・・・・・。
確かどらこちゃんにあっさり敗北しただけで、宝石はまだ健在のはずだ。
「やるなら今ね」
「まぁ・・・・・・別に差し支えないと思うニャ」
さくらとゴローが言うと、ノワールは急に立ち上がる。
「やっぱりそろそろ退散するよ」
上着を羽織り直すと、すぐさま立ち上がる。
立て付けの悪い障子をガタガタさせながらも、慌ててない風を装って出ていった。
「なんだったんだ・・・・・・」
「なんだったんですかね・・・・・・」
言っている間に、再び障子が開く。
開けた障子を盾にしてこちらを覗くのは紛れもないノワールだった。
「ああ・・・・・・最後にトイレだけ借りさせてくれ」
それだけの為に戻って来たのか・・・・・・。
もしかしたらペットボトルのがぶ飲みが効いたのかもしれない。
「いいよ・・・・・・案内する」
なんだか今は敵だとか味方だとかどうでもよくなってしまった。
足で勢いをつけて立ち上がる。
ノワールを送ったら、ついでにこの部屋まで扇風機を持ってこようと思った。
続きます。