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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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黒の再来(1)

続きです。

「はー・・・・・・疲れた・・・・・・」


 自分の部屋で、ベッドに体を投げ出す。

広げた四肢を蒸し暑い空気が包んだ。


 木目が目立つ天井にぶら下がる照明は、古びていて今にも落ちてきそう。

そんな見慣れた自分の部屋の天井が、やっぱり一番落ち着くのだった。


「ほんと・・・・・・お疲れ様ニャ。だとしても・・・・・・」


 時計の針は夜八時を指す。

うっすらと額にかいた汗を拭った。


「でも、疲労を引きずりすぎニャ!」


 ゴローが枕元まで降りてくる。

私は枕で耳を塞いで目を閉じた。

瞼の内側の暗闇には眠気がモヤのように絡み付いている。


「えっと・・・・・・あれから・・・・・・いち、にい、さん・・・・・・四日?」


「そうニャ。そろそろいい加減に生活習慣を矯正するべきニャ!」


「そうは言っても・・・・・・」


 長期休暇で生活リズムが狂うのは自然の摂理的なもので、しょうがないことなのだ。


「まずは九時前に目覚めることが目標ニャ。てか起こす!」


 そんなことお構い無しにゴローは続ける。

薄目で見ると怒りで耳を震わせていた。


「まぁとりあえず・・・・・・」


 ゴローの尻尾を掴まえて、抱き込む。


「まずは早寝からってことで・・・・・・」


「早寝は割といつも通りニャ・・・・・・」


 猫の躾には耳を噛むといいという話を聞いたようなそうでもない気がするので、うるさいゴローの耳を噛んだ。


「ほろーへんきへして」


「そうしてほしいならまず手を離すニャ・・・・・・」


 手を離して、ゴローに電気を消させる。

消した後も何だかんだゴローは私の腕の中に帰ってくるのだった。


 電気を消しても、完全な暗闇にはならない。

月の青白い光が夜を照らしていた。


 蒸し暑さに布団を蹴って、寝巻きの袖をまくる。

網戸だけ閉めた窓から吹き込む風が素肌を撫でた。


 ちょっとだけ、姿勢を変える。

服と布団の擦れる音がして、それだけで十分だった。


 自分の呼吸を遠くに感じる。

そんな時には、私はもう既に眠っている。




「起きるニャ!今すぐ!迅速に!」


 眩しい朝日に、けたたましい目覚ましの声。

眠りすぎたときの軽い倦怠感。

相変わらずの暑さに顔を顰めながら目を開くと、小型のジョウロを傾けるゴローが目に入った。


「うわっ!?何やってんの・・・・・・?」


 一風変わった目覚めの風景に飛び起きる。

ジョウロの先から一滴の雫がシーツに垂れた。


「おそよう。お昼まであと三十分ニャ」


「いや・・・・・・え・・・・・・?何やってんの?」


 私が困惑していると、部屋の扉が開きどらこちゃんが入って来た。


「よ。あたしが提案したの」


「題して擬似おねしょ覚醒計画ニャ」


「え・・・・・・おね・・・・・・?てか何でどらこちゃん・・・・・・?」


 どらこちゃんがてくてくベッドまで近づいて来る。

ドアの向こうにはこちらを覗くさくらとみこちゃんの顔もあった。


 どらこちゃんが、私のベッドに座る。

そして私の肩を掴んだ。


「いいから着替える!歯ぁ磨く!飯は・・・・・・」


「お昼まで我慢ニャ」


「状況が掴めないんだけど・・・・・・」


「寝ぼけてんのか!」


 部屋の外から、さくらが舌を出して言う。

うん、たぶん寝ぼけてる。


「今日は自由研究の日ですよ・・・・・・」


 開いた口が塞がらない私を見て、みこちゃんもくすりと笑った。


 その言葉で全てを思い出す。

自由研究の前の案が没になり、また再考するために集まると決めていた日、それが今日だったのだ。

開始時刻は確か九時半。

つまり・・・・・・二時間の遅刻だ。


 ぎこちない動作で、どらこちゃんに視線を運ぶ。


「わ、私の家だし・・・・・・居たから遅刻ではない、よね・・・・・・?」


 どらこちゃんは笑っていた。

そりゃあもう冷たく。




 諸々の支度を終えて、みんなの前に再び戻る。

こうしてフルメンバーが揃うまでには、既に昼のチャイムが鳴った後だった。


 座敷に用意された背の低いテーブルの中央にはお菓子が置かれ、それを囲むように簡単な料理が置かれていた。

冷凍食品のたこ焼きだとか、から揚げだとか・・・・・・。

いまいちお菓子の延長線上というような感じの品揃えだ。


「あーあ、捗ったわよ。きららが寝ててくれたから超捗ったわよ・・・・・・」


 さくらがぷんすかたこ焼きをつまむ。

熱いのか口の中で転がしていた。


「まぁ、みんなを待たせるのは良くないですね」


「そうだぞぉ」


「・・・・・・だニャ」


 テーブルの周りには教科書や図鑑、その他宿題が散乱していた。


「うぅー・・・・・・ごめんってばぁ・・・・・・」


 言いながら用意されていた座布団に座る。

テーブルに項垂れるように貼り付き、近くにあったから揚げを手にとって齧った。


「美味しい・・・・・・」


 頭の奥に燻る眠気の残滓が、解けていくのを感じた。

続きます。

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