表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
184/547

救世主(21)

続きです。

 汗が染み込んだ下着をズボン越しに引っ張る。

体は冷えないけれど、汗だけはしっかり冷たくなって不快に感じた。

 座り直して、顔を手で扇ぐ。

別にこれで涼しくなるわけでもないのだけれど、何度もそんなことを繰り返していた。

「・・・・・・はぁ・・・・・・あ・・・・・・」

 息を吸うとあくびがこぼれる。

乾いた喉を空気が通っていった。

 何をするわけでもなく、下を向く。

足の間からコンクリートの灰色が見えた。

グラウンドの砂利が転がっている。

 その石を見て、ボーっとしていた。

「ほいさ」

「わっ・・・・・・と・・・・・・?」

 突然の声に心臓が跳ねる。

誰かと思えば、芹だった。

いや・・・・・・芹以外に話しかけてくる人なんて居ないか・・・・・・。

「終わった・・・・・・?」

 見たところサッカー部はまだ忙しそうだが・・・・・・。

「いんや。いっちゃんが暇そーだから抜けて来た。別に部員ってわけでもないしね」

「そ、そう・・・・・・」

 芹が汗を拭ってニカッと笑う。

なんだか胸がキュッとした。

「そーんで、話って何さ?」

 芹がくるりと体の向きを変えて、蛇口を掴む。

それを上向きにして水を出した。

「わぶ・・・・・・」

 芹の顔に思い切り水がかかる。

私の方までその飛沫が飛んできた。

「ちょっと・・・・・・」

「めんごめんご」

 水の勢いを弱めながら、芹が言う。

水の高さがちょうど良くなってから、その水を浴びるように飲んだ。

 水しぶきがかかったところが濡れて、冷たくなる。

汗と違って、何故だかその冷たさは心地よかった。

 自分も喉が渇いているのを感じて、ガブ飲みする芹の隣に並ぶ。

私も同じようにして水道水に食らいついた。

口いっぱいに温い液体と鉄っぽい味が広がる。

不味いけど、こういうのも悪くないと思った。

 喉を液体が通り、胸の辺りまで流れていく。

不思議と腹に溜まっていくような感覚は薄かった。

「・・・・・・はぁ」

 口元を拭って、水を止める。

体が帯びていた熱はすっかり引いたように感じた。

 隣の芹を見る。

未だに全開にした口で噴出する水を受け止めていた。

「ぷはぁ・・・・・・!」

 やがて息継ぎでもするかのように顔を上げる。

顎から雫を垂らしながら水を止めた。

「・・・・・・んで、なんだっけ・・・・・・?」

 水に濡れた顔で芹が尋ねる。

もう忘れたというのか・・・・・・。

「いや、だから話したいことが・・・・・・」

「あぁ・・・・・・そだった、そだった・・・・・・。そんでそんで、話って・・・・・・?」

 聞かれて、淀む。

話さなければいけないのに、依然話の切り出し方が固まらない。

「ん・・・・・・?」

 なかなか喋り出さない私に芹が首を傾げる。

 私は慌ててとりあえずの言葉を放った。

「あぁ・・・・・・っと、なんて言うか・・・・・・夜中に出歩かないで欲しいなぁって・・・・・・」

 目が泳いでいるのが、自分でも良くわかった。

いまいち自信がない。

この言葉で何かが変わるのか、そもそも不自然極まりないだろう。

「・・・・・・ん?別にもともと夜出歩かんよ。早寝早起き二度寝がお決まりだから・・・・・・」

「だ、だよね・・・・・・」

 芹の反応はもっともだった。

また、一つの謎が浮上する。

芹の言う通り、普通の小学生が夜遅くに街を出歩くものじゃない。

なら何故芹は夜の街で倒れていたのか・・・・・・。

「と、とりあえず・・・・・・気をつけてほしい。最近色々あるし・・・・・・」

 鉄パイプ事件の力を借りて念押しする。

「う、うん」

 芹もよく分かっていないなりに、とりあえずは従ってくれそうだった。

 飛び散った水に濡れたコンクリートの上でしゃがむ芹に視線を落としつつも考える。

 そもそも夜の道に芹のし・・・・・・死体が倒れていただけで、夜に襲われたとも言い切れない。

ずっと夜とばかり思っていたが、そうじゃない可能性だってあったのだ。

だとすればどうすれば・・・・・・。

「おーい。どしたの?そんな険しい顔しちゃって・・・・・・」

 芹が腕を膝の上でぶらぶらさせてこちらを見上げる。

その気の抜けた姿を見て、考えを決めた。

「芹、ずっと一緒に居てほしいのだけど」

 いつかも分からないなら、いつでも対処出来るようにするしかない。

せめて今日一日だけでも。

それは単純明快な答えだった。

「何それ・・・・・・告白?」

「みたいなもの」

 あんまり芹のおふざけに付き合ってる余裕も無い。

今は適当に流させてもらう。

「芹・・・・・・」

「・・・・・・へ?」

 一拍遅れて芹の声が漏れる。

なんだか様子が変だが、大丈夫だろうか。

「芹・・・・・・?」

「あ、いや・・・・・・なんでもない」

 しっかりしてくれ、と肩を落とす。

あとは必死に別の未来を手繰り寄せるだけだ。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ