救世主(13)
続きです。
結局結構長居してしまった。
日はまだ沈まないが、薄ら暗くなっている。
芹の母から送って行こうかという申し出もあったが、遠慮しておいた。
時刻は既に六時を回っている。
「流石に・・・・・・」
芹の家にもきっと迷惑だっただろう。
温い風が半袖を揺らす。
街灯とお店の光が混ざり合って、チカチカ明滅した。
芹の家に申し訳ないと思いつつも、胸の内には妙な満足感がある。
久しぶりに足が軽く、頭も軽かった。
沈む太陽に急かされて、足が早まる。
妙に胸中が明るいので自分でもその足取りが浮き足立っているのが分かった。
「・・・・・・なんだろな。なんか・・・・・・」
至る所で明滅する光に誘われて、辺りを見回す。
こんなに景色をしっかり見たのはいつぶりだろうか。
今まで目障りなだけだった街並みが、人々の営みが、気分一つでまるで違って見えた。
「こんな・・・・・・場所だったんだ・・・・・・」
もちろん生まれてこの方引越しだとかそう言うものを経験したことはない。
なのにまるで初めて見たかのような気持ちだった。
芹と手を繋いで歩いた道を、一人で逆戻りする。
通り過ぎる車の音、時々聞こえる中高生の話し声、自分の足音。
沢山の音に囲まれて、影が伸びる街を歩いた。
やがて、買い物をしたスーパーまで辿り着く。
芹と来た時より賑わっていた。
ここまで来たらもうすぐだ。
私の家はすぐ近く。
鉄パイプを持った犯罪者に出会うこともなく、無事に辿り着ける。
「・・・・・・」
ところが、そうはいかなかった。
人々の喧騒が強まり、そして遠のく。
決して無くなりはしない。
私も以前に二度ほど出くわしたことがある。
突然地球に現れた異形。
街の人々が遠巻きに眺める中で、私の目の前に一際大きな影が伸びる。
骨張った長身痩躯に、体液のようなものが滴っている。
細長い首の上には骸骨のような頭が乗っかっていた。
「・・・・・・アンキラサウルス・・・・・・」
その二メートルほどの身長を持つ化け物を前にして、私の足は動かない。
人々は遠くから眺めるだけで、誰も何もしようとしない。
「あ・・・・・・」
感覚が麻痺したような感じで、アンキラサウルスを前にしても何も感じることが出来なかった。
怖くない・・・・・・けど、頭に何も浮かばない。
完全な思考停止。
ただ私に被さる影の中で、唖然として立っているだけだった。
続きます。