救世主(11)
続きです。
食後の重たい腹を抱えながら、惰性でゲームをピコピコ。
満腹感の所為か、ひとの家だと言うことも忘れてすっかりリラックスしていた。
ゲームをプレイする私たちの口数は少ない。
時々芹はあくびをこぼす。
もう何ゲームやったか分からないけれど、私も少しは勝てるようになって来た。
しっかり上達している・・・・・・あるいは、芹のプレイが荒くなってきたのかもしれない。
芹があくびをして、左手で目を擦る。
その表情はぼやーっとしていて、どんな気持ちなのかはよく分からない。
「芹・・・・・・もしかして眠い・・・・・・?」
「・・・・・・」
聞いても反応が鈍い。
これはもうほぼ確定だろう。
芹がぼやけた声で遅れて反応する。
「その可能性は・・・・・・なきにしもあらず・・・・・・」
「いや、自分のことでしょうが・・・・・・」
しょぼくれた目をパチパチさせて、精一杯目を覚まそうとする。
「んー・・・・・・おかしいな・・・・・・。いつもはこんなにならないのに・・・・・・」
目を押さえて、またあくびをこぼす。
目の端から涙が溢れた。
「・・・・・・私、帰ろうか?お母さんもああ言ってたし・・・・・・」
「いや、それは・・・・・・。大丈夫、今目覚ますから・・・・・・。あ、覚める・・・・・・もう覚める。目覚めのときは近い・・・・・・」
やたら舌は回るが、眠そうなのは変わらない。
「別にそんなに必死にならなくても・・・・・・」
どういうわけかまだ私を帰したくないらしい。
しかし、それはそれとしてやはり眠気は強いようで動きが鈍い。
「・・・・・・分かったよ。帰らないから・・・・・・寝れば?」
「いや・・・・・・人を呼んで置いて寝るのはいかがなものかと・・・・・・」
「なんなら、呼ばれたより連行されたのが感覚的に近いけどね」
芹のコントローラーを握る手が一瞬緩む。
慌ててそれを握り直していた。
「仕方ない・・・・・・」
頑なに寝ようとしない芹の体を引き倒す。
抵抗は薄かったが、頭が床にぶつかって結構鈍い音が鳴った。
「あ・・・・・・ごめん。大丈夫・・・・・・?」
「何・・・・・・?目を覚ませってこと・・・・・・?」
「寝ろってこと・・・・・・」
芹が寝転がったまま、潰れたクッションを足で引き寄せる。
枕にするつもりで引き寄せたのだろうけど、途中でその気力を失い無意味に足で挟んだ姿勢で落ち着いた。
私の伸ばした足に芹の指が伸びる。
「・・・・・・膝枕いいスか?」
「いや、なんでよ・・・・・・」
「ダメすか・・・・・・?」
伸ばした指で服の裾を摘み、こちらを目だけで見上げる。
その目はあくびのせいですっかり潤んでいた。
「ま・・・・・・いいけど・・・・・・」
なんだか気恥ずかしくなって目を逸らす。
芹は気にせずナメクジみたいにのそのそ登ってきた。
太ももの上に、芹の頭が乗る。
髪の毛がくすぐったかった。
「・・・・・・思ったより安定しない・・・・・・」
「降りる・・・・・・?」
「・・・・・・」
芹は降りることなく、私の足の上で身じろぎする。
体の正面を私側に向けて、完全に寝にいったようだった。
「昨日・・・・・・何時に寝たの・・・・・・?」
「・・・・・・」
芹の吐く息が太ももを撫でた。
「・・・・・・そう言えば・・・・・・昨日はお父さんと一緒にDVD見てた気がする・・・・・・。ふっるい特撮」
「完全にそれじゃん」
もうこれ以上話しかけないと決める。
芹が眠りにつくまでそう時間はかからなそうだった。
とりあえずテレビの音量を下げる。
電源を切ることも考えたが、ゲームに不具合があるといけないからやめておいた。
芹の寝息と、時計の音。
それに外を走る車の音が重なった。
騒音以外の何ものでもないけど、それらが混じり合ったごちゃごちゃした音に耳を傾けて、私も目を閉じた。
続きます。