救世主(2)
続きです。
私が家を出て、そしてこの宝石に出会ったのは偶然ではなかったらしい。
私はそのことを誰に聞かされたわけでもないのに知っていた。
あの後、私はすぐに家に戻った。
いつもなら机に向かうのだが、今はそれどころではない。
「・・・・・・名前、か・・・・・・」
考えたことも無かった。
自分の名前云々なんて、そんなことに不満を持ったことはなかったし、貰ったものだ。
大切にしなければならない。
与えられたものには、応えなければならない。
「じゃあ、これは・・・・・・?」
手のひらに握りっぱなしの宝石を見る。
私にこの宝石が与えられたのは偶然ではない。
なら、何に使おう。
その答えはすぐに思いついた。
私が求めた救世主。
私自身がそれになって仕舞えばいい。
宝石をポケットに突っ込んで、窓を開ける。
真夏の午前は既に暑い。
けれども、私はもう止まれない。
数年ぶりに頬が緩むのを感じる。
頭の中には、この力を使って爽快に生きていく私自身の空想が広がっていた。
視界が開ける。
バラ色まではいかないけれど、私の世界は精彩さを取り戻し始めていた。
まだ何もしていないのに、浮き足立つ。
こうしてはいられない。
前のめりになって、子供部屋を飛び出す。
階段を降りて靴を突っ掛けるように履き、そして再び外に飛び出した。
今日の私は情緒不安定なんてもんじゃない。
「でも・・・・・・!」
早まる鼓動は止められない。
止まったら死ぬし。
私は今日から始まったのだ。
人々の奇異の目に晒されながら、人混みに向かって走り出す。
アスファルトを蹴る感触が、髪を揺らす風が、呼吸が息苦しくなっていくのさえ心地よかった。
続きます。