ゆーま(30)
続きです。
もはや道とも言えない道をウサギに導かれて進む。
ウサギが跳ねる度に、そのツノが視界で揺れた。
「しかし・・・・・・遠いな」
山の斜面を徐々に登るように進んで行っている。
草木は伸び放題で、とても楽な道とは言えない。
飛び回る蚊が目障りだった。
さくらも時折蚊を叩いているように見えた。
ウサギの後ろ姿を睨みつけて先頭を行くみこの母さんは、蚊などはとうに眼中にないようで、気にしている様子はない。
木の幹に捕まりながら斜面を登っていると、視界の端でゴローの尻尾がぐねる。
「どうした・・・・・・?」
「いや・・・・・・その、きららがダメージを受けたニャ・・・・・・」
不審に思って聞くと、ゴローはそう言った。
「ダメージって・・・・・・あの鳥?どちらにせよ、急がないと・・・・・・」
さくらの表情が険しくなる。
少なくとも、あまり好ましい状況ではない。
「・・・・・・ちょっと、苦戦してるみたいニャ・・・・・・」
ゴローの声のトーンが一段下がる。
「どうやら、ますます急がないとみたいだな」
目を細めて遠くを見るが、依然景色に大きな変化はない。
ただ焦りばかりが募る。
急がなければならない状況に反して、負傷したウサギの速度はあまり速くない。
もちろん無茶が出来る状態じゃないのは分かるが、それでもやっぱりもう少し速ければ・・・・・・。
無い物ねだりだけが捗った。
「ねぇみんな・・・・・・なんだか音が聞こえない?」
終始無言だったみこの母さんが口を開く。
立ち止まって、ただ一方行を見つめていた。
「・・・・・・音?」
さくらが聞き返すが、返事はない。
音に耳をすましているようだった。
鼻先に黒い煤のような粉が舞う。
何かと思って掴もうとするが、風に巻かれて飛んで行ってしまった。
その時だった。
あたしの耳にも、木が軋むような音が届く。
続くのは木の葉同士、枝同士が、ぶつかり擦れ、折れる音。
「これは・・・・・・」
それはさくらたちの耳にも同然届く。
それなりに大きな音だった。
「間違いないね」
みこの母親の疑念が確信に変わる。
瞬間、枷が外れたように見つめていた方向に走り出した。
「あ、おい・・・・・・!」
慌ててあたしも、その後を追う。
さくらも通り過ぎようとしていたウサギを捕まえて、あたしの後に続いた。
続きます。