竜の泪(5)
続きです。
目を覚ますとボヤけた天井の明かりが、目を突き刺した。
眩しくて顔を倒すと、覗き込むゴローが視界に入った。
お腹の奥はまだ痛みが脈打っていた。
「ここは......?」
前髪が重力に従って崩れる。
「キミの家ニャ」
時刻は何時頃だろうか。
窓から差し込む光は密度が低く、既に暗くなっていることが分かる。
「大丈夫かニャ」
「う......うん」
どらこちゃんはあの後どうしたのかとか、訊きたいことはあったのだがどうにも口が回らなかった。
ベッドに横たわる体を起こす。
ゴローもそれを補助してくれた。
ゴローが私にペットボトルの水を渡す。
「おばあちゃんも心配してたニャ」
キャップを開けて、ペットボトルを唇に押し付ける。
常温の水がゆっくりと流れて行くのを感じた。
「ちょっとだけ真面目な話をするニャ。キミはたぶんボクのことを思ってしてくれたんだろうけど......あんなこと絶対にしちゃダメニャ。今回は大丈夫だったけど、命を簡単に手放し得る行為ニャ。キミの命を守るためにボクがあるということを忘れないでほしいニャ」
ゴローが諭すような口調で穏やかに言う。
「ごめん......なさい......」
何もかも図星で、ゴローの優しい口調に少し泣きそうになる。
「大丈夫ニャ。結果論だけど、キミは生きてる。それにキミがボクのことを考えてくれた......そういう気持ち自体は否定されるべきじゃないニャ。ありがとう......だけど、もうしちゃダメニャ。ね?」
ゴローの手が私の頭を撫でる。
そもそもぬいぐるみの手だし、下手くそだけど、身を委ねたままだった。
「せっかく今日学校に行ったわけだけど、明日は休みニャ。おばあちゃんとボクからのお願いニャ。学校は痛いのがなくなってからニャ」
「うん......」
ゴローの手が離れる。
私は離れて行くその手を掴んで、抱き寄せる。
すっかりゴローは腕の内側に収まってしまう。
ちょっと抱くのには小さかった。
腕の中でゴローがもぞもぞ動く。
「まぁ今日は......とりあえずよく頑張ったニャ」
脚を折り曲げて、再び布団に沈む。
「私、どらこちゃんにも謝らないといけないと思うの」
あの時のあの顔。
たぶん相当ショックだったんだと思う。
「謝る為にも、今はゆっくり休むニャ」
その言葉を聞きながら、再び目を閉じる。
「あ......でも晩御飯は食べるニャ。おばあちゃん読んでくるニャ」
そう言って、私の腕からするりと抜けて行く。
「今行かなくてもいいじゃん......」
空っぽの腕の中が少し物足りなく感じた。
続きます。