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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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ゆーま(20)

続きです。

 ずっと続いていた森の風景が突然開ける。

陽を遮るものがなくなり、その眩しさにちょっと目が眩んだ。

「着きましたね・・・・・・」

「そだね」

 目の間には水が流れている。

 音を頼りに目指した沢は、思いのほか遠く、だいぶ時間もかかってしまった。

これでどこに辿り着けるかも分からない。

まぁ、もちろん今更後戻りするわけにもいかないが。

 流れる水は透き通っていて、手を浸すととても冷たかった。

「うぅ・・・・・・」

 今のところ歩くばかりで水分補給も出来ていない。

いくら綺麗といっても、そうやすやす飲むわけにもいかないだろう。

「これ・・・・・・飲めないですかね・・・・・・」

 みこちゃんも考えることは同じようで、隣で水を掬いあげては流れに戻していた。

「分かんない・・・・・・。火でも着けられれば・・・・・・」

「そうですね・・・・・・」

 おそらく川の水でも、沸かせば何とかなりそうなものだが、そもそも火がつけられない。

「そうですね・・・・・・これなんか、どうですか・・・・・・?」

 そう言ってみこちゃんがどこからか持ってきたのは、木の棒。

「え・・・・・・」

 どう言うことか分からず首を傾げると、みこちゃんが倒れた木を指差した。

「こ、これでこう・・・・・・ぐりぐりーってやれば・・・・・・火がつく、んじゃないかなぁ・・・・・・と思いまして・・・・・・」

「ほぅ」

 棒を受け取って、倒木に跨る。

そのザラザラの皮に棒を立てて、言われた通りぐりぐりーっとやってみた。

「・・・・・・ふんッ!」

 とても火はつかなそうだったので、更に力一杯棒を回す。

 しかし、棒がずれたり折れたり、しまいには手にトゲが刺さったり・・・・・・なかなか上手くいかなかった。

「ま、まぁ・・・・・・なかなか上手くいかないですよねぇ・・・・・・」

 何度目の挑戦かで、忍耐力が尽きて木の棒と一緒に着火を投げ出した。

「もー無理・・・・・・!つかない!てか水の入れ物無いし・・・・・・!今気づいた

!!」

 汚れるのも気にせず、振り上げた手の遠心力で倒れる。

「うわ・・・・・・びっくり」

「いや、びっくりしたのはこっちですよ・・・・・・急に倒れたりして・・・・・・」

 みこちゃんがボヤくが、今はそれどころではない。

またあの鹿ウサギが居たのだ。

私の目を覗き込んで、鼻をヒクヒクさせている。

 慌てて体を起こす。

私の動きにウサギは驚いたのか、ビクッと一瞬跳ねた。

「あ・・・・・・また、あの・・・・・・謎の生き物ですね」

「気をつけて・・・・・・アンキラサウルスかもしれない」

 あの変な虫のこともあって、警戒する。

見慣れない生き物には要注意だ。

愛らしい見た目でも、アンキラサウルスだったらいつ牙を剥くか分からない。

「あ、みこちゃん・・・・・・!」

 しかし、みこちゃんは私の言葉を気にせず、ゆっくりと鹿ウサギに歩み寄る。

「だ、大丈夫そうですよ・・・・・・この子。ほら・・・・・・」

 そう言って、その体に手を伸ばす。

いざと言うときのために身構えておくが、しかしその腕は何ごともなくウサギの体に届いた。

「大丈夫・・・・・・なのかな・・・・・・」

 まだ疑いは抜けないが、私も恐る恐る近づく。

「大丈夫そうですよ」

「・・・・・・!!」

 今の「大丈夫そうですよ」はみこちゃんが言ったわけではない。

じゃあ誰が言ったか・・・・・・。

ウサギ以外あり得ない。

 なんだか、大丈夫じゃなさそうな気がしてきた。

「ほんとに・・・・・・大、丈夫・・・・・・?」

「大丈夫そうですよ」

「お前じゃねーよ」

 ウサギが繰り返す。

当然ウサギに聞いたわけではなく・・・・・・あ、でも大丈夫かどうかを知っているのはウサギだけなわけでだったらウサギは正しかったのかもしれない。

いや、どっちにしろその言葉の信憑性は薄いが。

「なんか・・・・・・大丈夫じゃなさそうですね・・・・・・」

 みこちゃんが微妙な表情をしつつも、その手はウサギから離れない。

触り心地、いいもんな・・・・・・。

「えぇ・・・・・・っと、どうしよう・・・・・・」

 今はコイツがアンキラサウルスかどうかの確信がないわけで、だから攻撃するわけにもいかない。

かわいいし。

ゴローが居れば良かったんだけど・・・・・・。

 私がどうするべきか考えていると、みこちゃんが何かに気づく。

「あれ・・・・・・この子・・・・・・」

「ん・・・・・・どしたの?」

 聞くとみこちゃんが、ウサギを抱き上げてウサギの体の裏を見せてきた。

 白くて丸いお腹が、呼吸に合わせて上下している。

しかし問題はそこではなく・・・・・・。

「ケガ・・・・・・してる・・・・・・?」

 左後ろ足の毛が一部薄くなっており、血が滲んでいる。

そんなに大きな傷でもなさそうだが、しかし雑菌とかの影響はどうなのだろうか。

「その・・・・・・アンキラサウルスって生き物じゃないんですよね?」

「うん・・・・・・?」

 みこちゃんの意図を掴みかねて聞き返す。

「だから・・・・・・この子はアンキラサウルスじゃないんじゃないですか・・・・・・?」

「あぁ・・・・・・」

 血が流れていることから、このウサギが生き物だと判断したのだろう。

振り返ってみると、確かに血を流したアンキラサウルスは居なかったような気もする。

 ただ、それだけでアンキラサウルスではないと言い切れるかは・・・・・・。

「どうなんだろ・・・・・・」

「それじゃ、こうしましょう!今はこの子は生き物です!」

 みこちゃんの動きに合わせて、ウサギか腕の中で揺れる。

「私たちに危害を加えるまで、この子は生き物です!だから・・・・・・その、このケガ・・・・・・どうにかしてあげたいです・・・・・・」

「うん・・・・・・?うん・・・・・・」

 それでいいのだろうか。

少なからずそれは危険なわけで・・・・・・。

「ダメですか・・・・・・」

 みこちゃんがちょっとシュンとする。

「・・・・・・いや、いやダメじゃない。分かったよ。そのウサギはアンキラサウルスじゃない・・・・・・たぶん」

 流石にそう来られると、無下にするわけにもいかない。

アンキラサウルスかそうじゃないか分からない。

分からない以上、助けるために行動するのはむしろ当然だ。

「ありがとうございます・・・・・・!」

「い、いや・・・・・・別にそんな・・・・・・」

 みこちゃんがウサギを抱えて、私の元へ飛び込んでくる。

「角が・・・・・・角が刺さるからっ!」

「あ、すみません・・・・・・」

 今何が出来るかも分からないけれど、とりあえずはこれでいいと思う。

「大丈夫そうですよ」

 広い森に、ウサギの声真似が響き渡った。

続きます。

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