ゆーま(19)
続きです。
上を見上げれば、木々が形作る小窓から青空が覗く。
鳥の歌う声、風のそよぐ音、胸に広がる森の匂い。
「のどかだなぁ・・・・・・」
「のどかですねぇ・・・・・・」
こんな状況だっていうのに、森林の癒し効果の所為で変にリラックス出来てしまっていた。
「どこか・・・・・・近くに沢がありそうですね・・・・・・」
「え、うっそ・・・・・・?」
「はい、耳を澄ましてみてください」
何となく目を瞑る。
鼻腔を湿った空気がくすぐった。
瞼の裏の暗闇で、ただ音のみに集中する。
「あ・・・・・・確かに」
風に混じって、確かに水の流れる音が聞こえた。
「でも・・・・・・まぁ、それが分かってもしょうがないですね・・・・・・」
みこちゃんがぐいーっと背伸びをする。
どこかでかすったのか、肘のところに擦り傷があった。
「大丈夫・・・・・・?なんか、バイキン・・・・・・?とか」
「あぅ・・・・・・たぶん大丈夫なはずです・・・・・・」
そう言って自信なさげに笑った。
「しかし・・・・・・そうだね・・・・・・」
行動の指針が全くたたない。
何をしたらいいのか、何をしてもいいのか、さっぱり分からなかった。
たぶん私が何かを思いつくことはない。
圧倒的に知識が不足している。
考える材料がそもそも無いのだ。
だから、行動するしかない。
何も分からなくても、何もしないでどうにかなる状況じゃない。
「とりあえず・・・・・・沢、行こうか」
「行くんですか・・・・・・?どうして・・・・・・?」
みこちゃんが首を傾げる。
当然その問いへの回答を私は持ち合わせていないので、笑って誤魔化した。
とりあえず、まず沢を目指す。
その先は着いたら考えればいい。
私たちは、かすかに聞こえる音の方へ歩き出した。
「くっそ・・・・・・!どうすんだよ・・・・・・!」
「まずいわね」
二人の焦りに満ちた声が風に流れる。
みこの母親は眉間に皺を寄せて、ただ後方を眺めていた。
避難に際して、ボクらは軽トラの荷台に乗せてもらっていた。
たぶん法律上あれだが、今はそうも言っていられない。
むしろ乗せてくれる人が居たことは幸運だと言えるだろう。
車で橋を渡るわけにはいかないので、木々に隠されていた別の道を行く。
それでアンキラサウルスの視界が遮れないものかと思ったが、そう甘くはなかった。
アンキラサウルスは確実にボクらを追って飛んでいる。
「まぁとりあえず、これから避難する人たちの退路は確保出来たニャ」
「いやいや・・・・・・既に同じ道で逃げてる人が何人も居るでしょーが・・・・・・」
さくらがボクの耳を掴んで、抱え込む。
思いのほか力強くて、苦しかった。
「それにこのまま街に引き連れていくわけにも・・・・・・」
みこの母は冷静に言う。
しかし、だからといってどうすることも出来ないと分かっているようで口をつぐんだ。
ろくに舗装もされていない道に、車体が揺れる。
翼を広げた影はすぐ後ろに張り付いていた。
続きます。