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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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ゆーま(18)

続きです。

 柔らかな風に前髪が揺れるのを感じる。

息を吸うと、湿った空気が喉に流れ込んだ。

 頭の下には柔らかい感触。

ほんのり熱を感じる。

 私は何をしていて・・・・・・それで、どうしたのだろう?

「あ・・・・・・」

 その答えに辿り着くと、ふわふわしていた意識が一気に確かなものになった。

私は巨大な鳥に捕まって、そして深い森の中まで運ばれてきたのだ。

 目を開けば、心配そうにこちらを覗き込むみこちゃんが見えた。

「あ・・・・・・よかった・・・・・・。気がつきましたね」

「えっと・・・・・・」

 苔むした地に手をついて起き上がる。

どうやらみこちゃんに膝枕をされていたらしい。

 巨鳥の姿は見当たらない。

森はさっきまでのことが嘘のように静かだった。

「・・・・・・あの、でっかい鳥はどこに行ったの・・・・・・?」

「それは・・・・・・分かりません・・・・・・」

 みこちゃんが申し訳なさそうに言う。

寄りかかっている木の葉が、風に揺れた。

「・・・・・・あっち、見てください。あそこに落ちたんですけど・・・・・・私たちを置いて、すぐに飛び去ってしまいました」

 みこちゃんの指差す方向を見ると、その位置に生えている木が軒並み折れていた。

その惨状から、巨鳥の凄まじさが窺える。

少なくとも、海水浴の時のイカと同じくらいの大きさはあるだろう。

「あ・・・・・・ごめんね。ありがと。私・・・・・・重かったでしょ・・・・・・?」

「いえ、そんな・・・・・・!」

 私は今、巨大な木の影に居る。

安全の確保のためにみこちゃんが気を失った私を運んできてくれたのは明白だった。

 木々が立ち並ぶ森に鳥の鳴き声が響き渡る。

「・・・・・・ここ、どこだろう・・・・・・」

「・・・・・・そうですね」

 前後左右どこを見ても木。

本来観光客が立ち寄るような場所でもないのだろう。

道らしいものも見えなかった。

「どうしましょうか・・・・・・」

 遭難した時にどうするか、なんていうのは何度かテレビで見たことがあるが、全く覚えていない。

そもそも、状況がだいぶ異なるような気もする。

「どうすっかなぁ・・・・・・」

 どちらにせよ、あまりうかうかしていられる状況じゃなさそうだった。



「みこ!みこぉー!!」

 口元に手を添えて叫ぶが、その声は届かない。

キラキラ舞う光の粒が邪魔で仕方なかった。

「くそ・・・・・・」

 怒りに任せて地面を蹴る。

あたしは何も出来なかった。

所詮、宝石が無ければ自分なんてこの程度。

ただそれがどうしようもなく、悔しかった。

「だ、大丈夫かニャ・・・・・・!?」

 ゴローがキラキラ粒子をかき分けて、状況を把握しようとしている。

その声に、唖然としていたさくらの肩が跳ねた。

 事態の異常さに、みこの母親が室外に飛び出す。

「みこは・・・・・・?二人は・・・・・・!?」

 視界の悪い中でも、みこの母親は二人がこの場に居ないことを理解してしまう。

「くそ・・・・・・!ちょっと、なんなの!」

 キラキラ粒子を手で掻き乱しながら光の奥に進んで行ったが、どこに行くべきか分からなくなってしまったのか、その場で崩れてしまった。

「お、落ち着くニャ!きららは生きてるニャ。それははっきり分かる。むしろきららのそばに居る方が安全かもしれないニャ!だから・・・・・・」

「そんなの関係ない!二人ともまだ子供だよ!?」

「それは・・・・・・」

 ゴローも母親も表情が曇る。

少なくとも、今の自分たちにはどうしようもないと二人とも理解しているのだろう。

「・・・・・・ごめん。でもね、猫ちゃん・・・・・・みこたちがこんな危険に晒されなきゃいけないなんておかしいよ・・・・・・」

 そう言って、項垂れる。

ゴローが何か言葉を掛けようとするが、結局何も言えなかった。

あたしが助けた時を含めて、みこがアンキラサウルスに襲われたのは二度目だ。

「・・・・・・あれ、なんでよ・・・・・・」

 さくらが空を見上げて、驚いたような、苛立ったような声を上げる。

 キラキラ粒子が満ちるこの場所に、巨大な鳥の影がかかっていた。

「・・・・・・やっぱり、今はボクらの安全を考えないとニャ」

 そう言うゴローを尻目に、消火器を拾う。

しかし、それはもうただの消火器だった。

 砂埃や残りの虫を巻き上げて、風が通り過ぎる。

電気を帯びた巨鳥はあたしたちの目の前に降り立った。

 それを室内の人々が口を開けて眺めている。

 みこの母親が急いで室内に飛び込み、声を上げた。

「みんな、早く逃げる準備をして・・・・・・!」

 その声に人々はハッとしたように、足をせかせか動かし始めた。

 巨鳥は静かにあたしたちの様子を眺めている。

「ゴロー・・・・・・どう言うことだ?何故戻って来た?」

「たぶんアイツは、この空間のキラキラ粒子濃度の爆増に反応して現れたニャ。そして一番の障害になるきららを片付けたあと・・・・・・」

 ゴローの話している途中に、巨鳥が翼を広げる。

その体に、キラキラ粒子が吸い寄せられていった。

「・・・・・・吸収、してる・・・・・・?」

「そういう、ことニャ・・・・・・」

 まだ避難の準備は整わない。

「くっそ・・・・・・やるしかない」

 稼げるか・・・・・・時間?

「な、無謀ニャ!きららが居なきゃボクだって何も出来ない!」

「そういうことなら、私だって・・・・・・!!」

 さくらも、巨鳥の前に立ち塞がるように現れる。

「ふ、二人とも!やめるニャ!」

 ゴローはそう叫ぶが、引くわけにはいかない。

引き留めねば、遅かれ早かれ追いつかれる。

「二人とも・・・・・・ありがとね」

 そう言って、再び屋外に姿を現したのはみこの母親だった。

もうキラキラ粒子はだいぶ晴れてきている。

「・・・・・・でも、ごめん・・・・・・!」

 しかし突然、みこの母親に体を掬われる。

「あ、ちょっ・・・・・・!」

 さくらも同様に捕らえられてしまった。

「猫ちゃん・・・・・・逃げるよ!早く!!」

「分かったニャ・・・・・・!!」

 光と巨鳥は遠ざかっていく。

結局、あたしには何も出来ず・・・・・・。

 握りしめた拳は、行き場を無くし垂れ下がる。

情け無く脇に抱えられて、ただただ悔しかった。

続きます。

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