ゆーま(11)
続きです。
布団の上に四肢を広げ、乱れた呼吸を整える。
視界の天井に照明の光が滲むように広がっていた。
「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
壮絶な戦いの末、私はこのテレビ前を死守したのだ。
途中から何でかどらこちゃんたちも加わってただの枕投げ大会になってたけど。
勝負の結果、布団の位置は私がテレビの前、扉側の方の隣がさくら、逆サイドはみこちゃんのお母さんだ。
そこからみこちゃん、どらこちゃんと続いている。
ただ一悶着の末に、布団の境界線はあやふやになっていた。
枕投げのときに一度ぐちゃぐちゃになり、敷き直したのだが以前のように整然とはならなかった。
しかし、それすらもはやどうでもいい。
もう、場所とかどうでもいい。
「テレビとか見てる体力無え!」
肺の空気を一息に吐き出して言い放つ。
もう、なんか疲れちゃった。
それは他のみんなでも同じようで、みんな布団の上で放心している。
ゴローは部屋の角で燃え尽きてた。
「因みに明日早いからね」
みこちゃんのお母さんがグッと親指を立てる。
「グッ・・・・・・じゃねーよ」
要らん運動をして、勝手に疲れる。
出来ればその前にそのことを教えてもらいたかった。
疲れてるならさっさと寝ればいーじゃねーかとなるかもしれないが、そうはいかない。
くっっっそ暑い。
浴衣がはだけているが、わざと直さずにいるくらいには暑い。
どらこちゃんに関しては帯を外してすらいた。
「あちー・・・・・・」
さくらが胸元をバタバタさせながらうめく。
もちろんその姿に色気など皆無だ。
「・・・・・・とりあえず歯、磨こっか」
お母さんが体を起こしてボソッと言った。
もうこのまま眠りにつこうとしていたが、言われてみれば歯を磨いていない。
いつもと違うとこんなことまで忘れそうになってしまうのか・・・・・・。
旅行の非日常感は恐ろしい。
みんな何かを言うこともなくノロノロと洗面所へ向かう。
分かりやすく気力を欠いていた。
シャコシャコ歯を磨き、吐き出す。
途中で水に触れるのもあり、体の熱さはだいぶ落ち着いた。
ついでに水を飲んだりトイレに行ったりして、布団に戻る。
その時には誰かが電気を既に消していた。
点けっぱなしにしておいた洗面所側の小玉電球の光が漏れ、天井を薄く照らす。
時折、廊下を人が歩く音などもした。
あまり音を立てないように周りを見回す。
みんな何も言いはしないが、目は開いたままだった。
「どうしたニャ・・・・・・?」
挙動不審な私に、ゴローが近づく。
「いや・・・・・・ね、なんて言うか・・・・・・」
疲れているはずなのに眠れない。
なんだか妙に目が覚めてしまっていた。
いざ寝るとなるとこうなってしまうのは何故なのだろう。
「・・・・・・みんな、今好きな人とか居る?」
「は?」
脈絡を無視した発言にゴローが反射的に首を傾げる。
「あんたね・・・・・・こう言うときの話題それしか持ち合わせてないの・・・・・・?」
さくらのように呆れる人も居れば、乗っかってくる人も居る。
「私はねぇ・・・・・・」
「え!?お母さん、お父さん以外に今好きな人がいるんですか?」
「違うよ、みこ。あ・・・・・・何?惚気話とか昔話とか聞きたい?」
みんなが起きているのは分かっているのに、何故かみんなヒソヒソと小さな声で話す。
「何だ何だ・・・・・・おめーら寝ねーのか?」
どらこちゃんが首を鳴らす。
だんだんと寝ない雰囲気は拡大しているようだ。
「いや・・・・・・でも、ちょっとみこのお母さんの恋愛遍歴には興味あるわね・・・・・・。そう思わない・・・・・・きらら?」
「興味ないね・・・・・・!」
しかし求めていなくても、みこちゃんのお母さんは話し出す。
「あれは今から三十六万・・・・・・いや、二年くらい前の話だったか・・・・・・。まぁいい・・・・・・」
「よくねーよ・・・・・・!」
「二年前って・・・・・・お母さんもう結婚してるじゃないですかぁ!」
「嘘、嘘・・・・・・じょだーん」
ちょっと重めのジョークを挟みつつも、話が幕を開ける。
それを聞き流しながら、ゴローを掴んで持ち上げた。
「・・・・・・何ニャ?」
「何でもなーい・・・・・・」
明日のことは一旦忘れて、今は夜を楽しむ。
それでいいと思った。
「誰かトランプとか持ってない?」
「あ、ちょっと・・・・・・私の話聞いてよぉ」
「持ってないわよ」
「つか暗いし」
どうもトランプの時間はもう過ぎてしまったようで、あまり反応が良くない。
「トランプなら持って来たニャ!・・・・・・いやぁ、実はちょっと勉強しててやりたかったんニャ・・・・・・」
「あ、もう大丈夫」
「えっ・・・・・・」
「あはは・・・・・・残念でしたね」
私のトランプ発言を皮切りに、いよいよ会話の方向性が乱れてくる。
みんな各々好き勝手やり始めたわけだ。
騒がしいし、てか寝ないとだけど・・・・・・でも、とても居心地は良かった。
少なくとも、昨日の夜と違ってUMAだの何だのの不安が芽生える余地はないのだった。
続きます。