ゆーま(7)
続きです。
夕食を終えて部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。
部屋いっぱいに人数分の布団が敷かれている。
満腹で重い胃袋を抱えたまま、テレビの前の布団に倒れ伏した。
ボフッと音を立てて布団から空気が抜ける。
「あー・・・・・・食べ過ぎたぁ・・・・・・」
夕食後のお腹は熱く重い。
まさかあんなに次々と料理が出てくるとは思わなかった。
普通に食べきれなかったぞ。
どらこちゃんの胃袋が底無しで助かった。
あの人、今日ずっと食べてた癖してちゃんと完食するし、人の分まで食べてしまえるからすごい。
「あんた結構好き嫌いしてあんま食べてなかったじゃない」
さくらが私の寝転がる布団の隅に座り、私の頬をつつく。
満腹すぎてその手を振り払う気も起きなかった。
「にしたってたくさん食べたよぉー・・・・・・。苦しいー」
「きらら、見てわかるレベルにはお腹が出てるニャ。確かに多かったみたいだね」
そう言いながらゴローが私のお腹の上に乗る。
どけや。
「あー・・・・・・流石にあたしも食い過ぎだぁ」
どらこちゃんも私と同じようにして、一番窓側の布団に倒れた。
その隣の布団にみこちゃんがちょこんと座る。
みこちゃんのお母さんは鍵を床の間に投げてペットボトルの蓋を回していた。
仰向けの体を緩慢な動作で捻って、うつ伏せになる。
お腹が圧迫されてちょっと苦しかった。
手探りでリモコンを探し、テレビを点ける。
何かしらの旅番組で、丁度食事をしているところだった。
美味しそうだが、今は食欲が湧かない。
「ふーんふふふーん・・・・・・」
テレビを眺めながら肩を揺らしていると、その肩がさくらにぶつかる。
「・・・・・・ちょっと、さくらいつまでそこに居るの?」
「いや、何ちゃっかりテレビの前占拠してるのよ」
どうやらこのポジションの布団が狙いのようだった。
その口ぶりから、その理由も分かる。
私がここを選んだ理由と同じで、テレビが正面にあるからだ。
「あはは・・・・・・。あるあるだねぇ、テレビ前の争奪戦」
それを見て、みこちゃんのお母さんが笑っていた。
「まぁまぁ君たち・・・・・・もう寝そうな雰囲気ガンガンに出してるけど、まだお風呂入ってないんだから・・・・・・戻って来たときの早いもの勝ちってことでいいでしょ」
「えー・・・・・・私せっかく早いもの勝ちで占拠したのにぃ」
「かく言う私もそこ狙ってたからね」
「大人げないニャ・・・・・・」
ほれほれ、とみこちゃんのお母さんにさくらも巻き込みながら転がされる。
そんな私たちを尻目にゴローはリュックサックに向かった。
「さて、寝巻きを用意しないとニャ・・・・・・」
しかしそのゴローをお母さんが声だけで制する。
私たちは転がされたままだ。
「あ、寝巻きなら要らないよ。旅館には浴衣というものがあるからね。涼しくていいぞぉ」
早速パンパンの荷物の一部がただのお荷物になってしまった。
部屋の端まで転がされて、さくらと絡まりながらも立ち上がる。
すると、そこにバスタオルが飛んできた。
どらこちゃんが見つけて配っているみたいだ。
私の分はちゃんと腕の中に飛んできたが、立ち上がる途中だったさくらはタオルを顔面で受けるハメになっていた。
「わり」
「あんたね・・・・・・」
さくらが文句を垂れる間にも、テレビの音が途絶える。
着々と入浴への準備は進んでいた。
お腹も、少し休んだら落ち着いて来たし・・・・・・。
「タオルと浴衣・・・・・・みんなに行き渡ってますね?」
みこちゃんの最終確認が入る。
ただ一人ゴローを残して、下駄を模したサンダルを履いて部屋を出た。
「また・・・・・・また一人ニャ・・・・・・」
続きます。