ゆーま(6)
続きです。
旅館の一室でお茶をちびちび舐めるように飲みながら寛いでいた。
丁度、案内の人が部屋を後にした直後だ。
座る座布団はいかにも高そうで、足に触れる畳の感触も心地良い。
夕食までまだ時間があるが、しかし何かが出来るほどの時間は無い。
だからいつもと違う空気感の中、ボケーッと知らないチャンネルの番組をみんなで眺めていた。
「いやー・・・・・・しかし、すごいな」
どらこちゃんが重複分のおつまみに手を伸ばしながら言う。
その視線は窓の外の薄い闇に包まれた山々に向いていた。
「こないだ海だったから、今度は山行きたいなって・・・・・・。明日は修学旅行並みに予定詰まってるから覚悟してね!・・・・・・って、君たち修学旅行は未経験か」
みこちゃんのお母さんは上着を脱いで座り、チャンネルを回した。
手持ち無沙汰になり立ち上がる。
テレビ番組には今は興味がなかった。
窓に近寄って外の景色を眺める。
ゴローも一緒になってそれを眺めていた。
「綺麗ニャ」
「え?私が・・・・・・?」
「な訳ないニャ」
身の回りの何もかもが新鮮で、次から次へと注意が移ろう。
冷蔵庫を開けてみたり・・・・・・。
「何も入ってないですよ?」
「あ・・・・・・みこ。あたしが飲み物系全部ぶち込んどいたぞ」
「あ、そうなんですか・・・・・・?ありがとうございます、どらこちゃん」
金庫の鍵を開けてみたり・・・・・・。
「きらら、邪魔」
「さくらが邪魔!」
「いや、どう考えてもきららが邪魔ニャ・・・・・・」
お風呂場を覗いてみたりした。
「ここ入るのー?」
「いやいや、きららちゃん・・・・・・。大浴場に決まってるでしょー。そんなところじゃ勿体ないよ。お母さん、お風呂目当てで来たと言っても過言だから」
「あ、そうなんですか・・・・・・。ん?え・・・・・・過言・・・・・・?」
多少困惑するが、深い意図は無さそうなので流した。
聞き覚えのある声がして、テレビを見る。
誰かと思えば、例の小学生アイドルだった。
「あ、またテレビ出てますね」
その画面を見て、みこちゃんがポツリと呟く。
「え、知ってるの?」
私は聞きながら座った。
「知ってるも何も・・・・・・お母さんが・・・・・・」
「ふふん、そうよ。今推してるのー」
「えぇ」
別にだから何と言うわけでもないが・・・・・・えぇ・・・・・・。
「お母さん、基本的にミーハーですから。流行り物には敏感なんですよ・・・・・・」
「な、ミーハーとは失礼な!わたしゃちゃんと心の底からかわいいと思ってるよ。それに・・・・・・この子、ときどき面白い楽器使うのよね」
「あ、知ってる。なんか見たことない楽器使ってるわよね」
お母さんの言葉にさくらも反応する。
どらこちゃんばかりは何もピンと来ないようで、おつまみ片手に聞き流していた。
言われて画面を覗くが、あいにく今は普通の楽器しか使っていなかった。
ただメーカーは見慣れないものだった。
「何あれ・・・・・・えっちわいえー・・・・・・?」
「百鬼夜行・・・・・・ニャ」
そのゴローの言葉に、みこちゃんが首を傾げる。
「あれ・・・・・・?百鬼夜行って、どこかで・・・・・・。あれ?なんでしたっけ?」
何か思い出そうとしているが、特にその記憶に手が届くことはなかったようだ。
「ふーん・・・・・・」
何も分からないまま、画面を眺める。
「ていうか・・・・・・そう言えばこのアイドルの名前ってなんて言うの?」
ふとこぼれた疑問に答えたのはさくらだった。
「ミラクル。未来が来るって書いて、ミラクルよ。それくらい知っときなさい。・・・・・・つか画面に出てるし」
確かに画面の左上には、話題のアイドルとして名前が紹介されていた。
カタカナ表記だ。
「ほえー・・・・・・」
「きらら、さてはおまえ興味ないだろ」
私の薄いリアクションに、どらこちゃんが笑う。
図星だった。
「さてと。そろそろご飯の時間だぞい」
みこちゃんのお母さんが、自分の尻を叩いて立ち上がる。
ポケットに雑に突っ込まれた部屋の鍵が揺れていた。
続きます。