ゆーま(5)
続きです。
窓の外はうっすら暗くなり始めている。
ビルばかりだった街並みは、気がつけば山に囲まれた都市に変わっていた。
街明かりが山に囲われて溜まっている。
「ね・・・・・・?良かったでしょ?」
みこちゃんが鼻をふんふん鳴らして、後部座席に視線を注ぐ。
「まぁ・・・・・・確かに・・・・・・」
まさか三部作だとは思わなかったけれど・・・・・・。
物語の最後の方で、一部のゾンビ軍団と宇宙人、二部の運命レベルの殺人鬼と飲んだくれたサメ、その全てを改造手術を受けたシーンは感動すら覚えた。
「いや・・・・・・でも、月でサメが無限増殖って・・・・・・冷静に考えれば意味不明でしょ・・・・・・」
「まぁまぁ・・・・・・冷静に考えるもんでもねーべ」
どらこちゃんは苦笑いするさくらに苦笑いで応じていた。
二人にはあまりウケなかったみたいだ。
「あはは・・・・・・実はスリーの次にもリベンジがあるんだけどね・・・・・・」
みこちゃんのお母さんはこの期に及んで、まだ布教しようとしてるみたいだ。
劣勢ですよ・・・・・・。
車は高速を降りて、一般道に出る。
背の高いビルはもう無いが、ただの田舎には無い活気があった。
まさしく観光地って具合だ。
もう日が沈みかけているのに、町を出歩く人々は絶えない。
きっとこの人たちも現地の人ではないのだろう。
「えっと・・・・・・ここなんですか?目的地」
ゴローの耳を引っ張りながらみこちゃんのお母さんに聞く。
お母さんは周りの景色に首を回しながら答える。
「そーね。いーでしょ、ここ。前にも来たことがあるんだ。ね、みこ?」
「はい!」
言われて外を眺める。
お店やら何やらのオレンジ色の光が通り過ぎていった。
「ほえー・・・・・・」
まだ何があるのかも分からないが、観光地独特の賑わいというか、温度感に自然胸が高鳴る。
ゴローが私の手を払いのけ、肩に登る。
「結構遠くまで来たニャ・・・・・・」
「ね」
ゴローの言葉に相槌を打って、座り直す。
さくらもどらこちゃんも興味を抑えられないらしく、辺りをキョロキョロ見回していた。
「なーにさくら、ウキウキしちゃって・・・・・・かわいいとこあるじゃん」
「っさいわね・・・・・・」
結構ガチめに睨まれる。
その気迫に気圧されて、ぎこちなく目を逸らした。
車が速度を落として、駐車場に入り込む。
「いやぁー・・・・・・みんな予定が合って良かったよぉ・・・・・・。キッチリ五人で予約してたからね。五・・・・・・五人・・・・・・。五人ね!」
「あ・・・・・・ボクは普通にぬいぐるみで通るニャ」
お母さんの視線を受けて、ゴローはそう答えた。
「てか、勝手に予約してたのね・・・・・・」
少しの振動と共に、車が完全に停止する。
そこでみんなは各々シートベルトを外し出した。
どらこちゃんは何故か既に外れていたけど。
靴を履き直して、車のドアを押す。
骨を鳴らして、駐車場のひび割れたアスファルトの上に降りたった。
「んん゛ー・・・・・・」
どらこちゃんが車のそばで伸びをする。
そのお尻を「早くしなさいよ」とさくらがぺちぺち叩いていた。
私たちが泊まるであろう旅館を見上げる。
想像していたよりずっと大きかった。
高そう。
運転席のドアが開く。
「着いたよ。ま、今日はもう夜ご飯食べて寝るだけだけどね」
吹く風は湿っているが、涼しく、不快ではない。
でもこれは確かに夜の風だ。
昼間でこれだけ涼しければいいのだけど。
「うっ・・・・・・」
突然背中に何かがのしかかる。
その重さに思わず前のめりになった。
「うぇ・・・・・・?何・・・・・・何?」
「荷物。・・・・・・自分のは持ちなさいよね」
振り返ると、さくらが私の背中にリュックを押し付けていた。
その後ろを覗くと、みこちゃんが荷物を引っ張り出しているのが見えた。
「あ、ごめん・・・・・・」
「ほら、背負いなさい」
さくらの持ち上げたリュックの肩ベルトに腕を通す。
ゴローもしれっとリュックサックの上に乗っかった。
「じゃ、行こっか」
みこちゃんのお母さんの声に牽引されて、私たちは旅館の明かりに向かって歩き出した。
続きます。