ゆーま(3)
続きです。
背の高いビルがまるで鏡みたいに太陽の光を受けて輝く。
今車が走るのは高速道路。
窓の外を流れる景色に目を奪われていた。
「車って・・・・・・速いんだね」
「当たり前じゃないの・・・・・・」
高速道路に入る前に買った缶コーヒーを握りしめて呟く。
海水浴のときとは違い私の隣にはさくらが座っていた。
乗った順番もどらこちゃんの方が先なのに何故わざわざ隣なのだろう。
「ほえー・・・・・・」
窓の外に広がる景色はビルばかりで、田んぼなんてどこにも無い。
いつもテレビで見るだけの風景だから、まるでテレビの中にそのまま入ったみたいだ。
「そんな物珍しそうに・・・・・・田舎者感全開だな」
そうどらこちゃんが揶揄するが、実際に田舎者なのだから仕方ない。
「ふふーん・・・・・・まだ着かないよ」
ハンドルを切りながらみこちゃんのお母さんが愉快そうに言う。
今度はちゃんと前を見たままだった。
窓に張り付いて外を眺めていると、急にさくらに服の裾を引っ張られる。
「ん、何?トイレ?」
「な訳ないでしょーが・・・・・・」
さくらが呆れたようにうなだれて言う。
「シートベルト。あんたしてないでしょ」
何かと思ったが、どうやらシートベルトのことだったらしい。
言われてシートベルトをすると、私とは反対側のどらこちゃんの方からもカチッと言うベルトを締める音がした。
「・・・・・・ていうか、高速道路じゃなくてもシートベルトはして下さいね・・・・・・」
そう言うみこちゃんの視線はしっかりどらこちゃんに刺さっている。
どらこちゃんがベルトを締めた音もしっかり聞き逃さなかったみたいだ。
どらこちゃんはそれに頭の後ろで腕を組んで目を逸らしている。
「ほれ、みこもずっと後ろ向いてると危ないでしょー」
みこちゃんの肩をお母さんが叩くが、ハンドルから手を離すのも危ないのではないだろうか。
そのハンドル操作を見ながら、コーヒーを啜った。
うん、全然分からん。
少なくとも片手運転でも危なっかしさのようなものは感じなかった。
視線を落とすと何故かゴローと視線がかち合う。
「ん・・・・・・?何?」
「いや・・・・・・キミがコーヒーなんて飲めるのがちょっと意外だっただけニャ」
「ああ・・・・・・コレ。すごいでしょ」
本当は激甘だけど。
「あんたそれマキシマムコーヒーじゃない・・・・・・。それバカ甘いわよ・・・・・・」
間髪入れずにさくらにネタバラシされてしまった。
誤魔化すように、もう一度その甘ったるい液体を流し込む。
甘すぎてちょっと咽せた。
しばらく走っていると、またみこちゃんのお母さんが口を開いた。
「ちょっと早いけど・・・・・・次のサービスエリアでお昼にしようか。トイレ休憩も兼ねて」
「あ、はい・・・・・・」
サービスエリアって何?
聞き慣れない言葉に曖昧に返事をする。
「あんた意味分かってないでしょ?」
「う・・・・・・」
さくらがしたり顔でこちらを覗き込む。
何故分かってしまうのだろうか。
「ま・・・・・・行けば分かるわよ」
「ふーん・・・・・・」
まぁ、それは分かったとして・・・・・・。
「お昼かぁ・・・・・・」
一体そのサービスエリアとやらでは何が食べられるのだろうか。
「何だきらら・・・・・・?あんま腹減ってないか?」
「えっ、うっそぉ?まぁ軽いものもあるから大丈夫よん」
どらこちゃんが首を傾けてこちらを覗く。
恐らく私の言葉の意味を取り違えたのだろう。
それはいいとして、お母さんは前向いて!
「違う違う・・・・・・何食べられるのかなって」
「ああ・・・・・・」
そゆこと、とどらこちゃんが納得する。
そしてさくらと顔を見合わせて何か話し出した。
「ま、色々だな」
「色々ね」
二人はどういうものがあるのか知っているらしく、知らないのは私だけみたいだった。
「あ、あと三十分くらいで着くよ。サービスエリア」
言われて辺りを見回す。
相変わらず外の景色は都会のビルの群れだった。
着くのが三十分後ならまぁ当然だろう。
ゴローが窓のそばによじ登る。
「あ、東京タワーニャ」
「え、嘘?どれ?」
「嘘ニャ」
目的地まではまだまだかかりそうだった。
続きます。