ゆーま(1)
続きです。
夕飯を終えて、居間でテレビの前に寝転がる。
懐にはスナック菓子とお茶。
テレビでは何故か夏にやるホラーゲーム特集みたいな番組がやっていた。
「ちょっとだらけすぎニャ!太るニャ!」
そう喚き散らすのはゴローだ。
言いながら、私の腰の位置に座った。
「いーじゃん、別にぃ・・・・・・」
「キミ、夕飯もしっかり食べてたじゃないか・・・・・・。そんな食べて寝て繰り返してたら、人間すぐ太るニャ!」
「えぇー・・・・・・でも・・・・・・」
数日前までは何も言わなかったが、急にそういうことを言うようになったのだ。
たぶん私が何日も同じようなことを続けているからだろうけど・・・・・・。
仕方なくお菓子の袋を輪ゴムで閉じる。
そしてそれを昔おせんべいか何かが入っていた缶にしまった。
テレビの前に戻って座り、ついでにチャンネルを変える。
「これじゃなくて・・・・・・こっちのがいいな」
チャンネルは有名な芸能人が心霊スポット巡りをしている番組から、今度は宇宙人だのUMAだの言っている番組になった。
お化けが出てくる前にチャンネルを変えられてよかったと思っている。
実は先程からチャンネルを変えるタイミングを見計らっていたのだ。
正直に打ち明ければ、私は心霊モノがあまり得意ではない。
ただ、急にチャンネルを変えても、怖がってるみたいでヤだなと思ってお菓子に意識を逸らしながら寝転がっていたわけだ。
その点、宇宙人だのUFOだのは作り物めいていて、あまり恐怖を感じないので優秀だ。
「キミ、ほんとに予定がないとだらけるね・・・・・・」
ゴローが呆れる。
不登校だった頃は罪悪感であんまり奔放な生活はしていなかったが、確かに今年の夏休みはかなりだらけてる方だと自分でも思った。
「まぁ・・・・・・ね」
「一応自覚はあるみたいで安心したニャ・・・・・・」
ペットボトルのキャップを捻る。
外したキャップは畳の上に転がしておいた。
するとそれにゴローがじゃれる。
手足は短いから尻尾でじゃれていた。
「猫っぽいところあるじゃん」
「ぬいぐるみニャ」
ほとんど無意識でじゃれていたらしく、恥ずかしそうにして私の足の間に収まった。
そこに収まられると、私が多少恥ずかしいが、黙認した。
ペットボトルに口をつけて、全く冷えていないお茶を流し込む。
その喉を通る感じが心地よかった。
「ぷは。美味」
言っててそんなに美味しいか?と疑問に思ってしまった。
後ろをおばあちゃんが通りがかる。
手には洗濯カゴを抱えていた。
「あら、きらら・・・・・・またそんなの見て・・・・・・。大丈夫なの?」
「お化けじゃないから大丈夫」
「そういう問題なのね・・・・・・」
そう言って苦笑いしながらまたどこかへ行ってしまった。
たぶんおばあちゃんは私が心霊番組を見ていて大丈夫じゃなかった時のことを知っているので、心配だったのだろう。
しかし、今見ているのは幽霊云々の類いではない。
だから大丈夫なのだ。
画面の中で、岩の塊のようなものから、緑色の宇宙人(?)が飛び出す。
そしてカメラに鉤爪を振り下ろした。
「今びくってしたニャ・・・・・・」
「急に出てびっくりさせる系だったから・・・・・・」
言い訳をするが、心臓はばっくばっくいって止まらなかった。
いや、止まっちゃダメか。
多少身構えながらも、ペットボトルを杖代わりに画面を覗く。
「・・・・・・合成。・・・・・・合成。・・・・・・アンキラサウルス・・・・・・」
「それ楽しみ方違うニャ・・・・・・」
やっぱり、心霊モノとは違いあんまり怖くなかった。
というか、自分で言っていて思ったのだが、アンキラサウルスというものが居ながら、こんな番組をわざわざ見るようなのが居るのだろうか。
「あ・・・・・・私か」
テレビを見ていると、突然電話が鳴る。
このくらいの時間にかけてくるのは大体さくらだろう。
「私が出るー!」
廊下の方で洗濯物を干しているおばあちゃんに向けて言って、受話器を掴んだ。
「もしもし、さく・・・・・・」
『もしもし?きららちゃんですね!』
「え・・・・・・」
予想が外れた。
なんと電話をかけてきたのはみこちゃんだったのだ。
まさかみこちゃんから電話がかかってくるとは思わなかった。
『どうしたんですか・・・・・・?』
「あ、いや・・・・・・何でもない。それより、どしたの?珍しいじゃん」
『それがですね・・・・・・この間、海に行ったじゃないですか。あれ以来、お母さんがまたどこか行きたいって言って聞かなくてですね・・・・・・。その・・・・・・勝手に旅行の予定を立てちゃったんです』
「はぁ」
それがどうしたというのだろうか。
いまいちわからずに、曖昧な返事が漏れる。
『その・・・・・・きららちゃんたちも含めて』
「・・・・・・」
数秒間、思考が停滞する。
「・・・・・・ん?つまり・・・・・・?」
『ですから、お母さんの旅行計画に前の五人で行くことが含まれてるんです!』
「えっ・・・・・・えぇ!?」
そういうの、普通は事前に確認とかあるんじゃないだろうか。
『どうせ小学生は暇だろー・・・・・・って』
先程までの自分の有様を思い出して、なるほどなと思う。
予定がなければどこまでもダラけきる私に、予定が転がり込んできたわけだ。
「え・・・・・・それは、いつ?」
『明日から一泊二日です』
「明日っ!?・・・・・・ってか泊まり!?」
何もかもが急だった。
『ほんとすいません』
「い、いや・・・・・・」
確かにびっくりしたけれど、それでも・・・・・・。
旅行・・・・・・か。
どこへ行くのかも分からないけれど、楽しみにしている自分がいた。
「何だったニャ?」
居間に戻ると、ゴローが尋ねてくる。
「明日旅行行くって、みんなで」
「えっ、明日!?旅行!?」
やっぱり驚くよなぁ・・・・・・。
「え・・・・・・えぇ・・・・・・」
「びっくり」
「いや・・・・・・ほんとにびっくりニャ・・・・・・」
一体どうなることやら、まったく想像がつかない。
リモコンを手に、テレビを消す。
そういうことなら早く寝なければ。
「ゴロー、準備よろしく」
「え・・・・・・自分でやれニャ」
「やだ」
「えぇ・・・・・・」
これで心配事は何もない。
あ・・・・・・っと、忘れるところだった。
心配事はまだある。
あの後、ブランに謝ろうと思ってどらこちゃんたちから情報を得ようとしたら、なんと“もう一人”だった・・・・・・ノワールと言うらしいその少女の居場所が分かったのだ。
ところが後日そこへ向かうと、そこには誰もいなかった。
ブランに繋がる道は断たれたのだ。
そんな、一つの問題は抱えたままだが、それはそれ、これはこれだ。
それにもしかしたら、またいずれ繋がるかもしれない。
それは何故か現実味を帯びた予感としてあった。
夜中、布団の中で丸まっているが、なかなか寝付けない。
最初は明日が楽しみで眠れなかったのだが、完全な真夜中になってからはテレビで見た宇宙人が頭から離れなくて眠れなくなっていた。
白く不気味に発光する奇妙な生物を思い出す。
合成だの何だのと一蹴していたそれが、今は外を徘徊しているんじゃないかと気が気でない。
もしかしたら、廊下に出たら既に奴らがいるのかも・・・・・・。
夏の、それも布団の中なのに寒気を覚える。
どうやら宇宙人でも私は大丈夫じゃなかったらしい。
声を出したら、奴らに見つかってしまう。
しかし、勇気を振り絞って声を絞り出した。
「ゴロー・・・・・・」
それは弱々しく震えた小さな声だけれど、ゴローは聞き逃さなかった。
「何ニャ?」
枕もとまで、ゴローがやってくる。
「・・・・・・・・・・・・トイレ」
ぎゅっと、ゴローの尻尾を捕まえる。
今年はゴローが居たので、結果的には“大丈夫”だった。
続きます。