表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
129/547

ドッペルゲンガー(15)

続きです。

 太陽を背にポーズを決める。

頭の両脇のドリルがバネのように揺れた。

逆光で決めポーズをとるその姿には格好良さの片鱗のようなものが伺える。

決して格好良くはない。

 その少女・・・・・・ブランと対峙して、身構える。

相手の能力はまだ分からない。

みこちゃんの偽物を作っていたからあまり戦闘向きではないのかもしれないが、油断は出来ない。

流石にあの身なりでも、勝てない戦いに自信満々で挑むほど馬鹿ではないだろう。

「さくら・・・・・・とりあえず下がってて」

「・・・・・・そう、不服ではあるけれど・・・・・・」

 言った通り不服そうな顔をするが、大人しく後ろに下がってくれた。

 更にそのさくらの前を立ち塞ぐように私が立つ。

 完全に手ぶらでどらこちゃんの家を出てしまったので、手元には何も無い。

ポケットにこっそり手を突っ込んで漁ってみるが、糸くずしか無かった。

 私も私で状況は苦しい。

まさかここまで来て家に戻れるわけもないだろう。

 あるいは海水の上を走った時のように屁理屈をこねるのも・・・・・・。

「おっと・・・・・・貴様、何を考えている?もっとも我の前にはどんな策も無力ではあるが・・・・・・」

 ブランは私の表情を見てニタニタ笑っている。

お互いにまだそれらしい動きは見せないが、異様な緊張感が場に満ちていた。

 すると、ブランがその場をウロウロしながら語り始めた。

「ふっふっふっ・・・・・・。貴様はどうせ我に敵わないのだ。冥土の土産に我の能力を教えてやろう・・・・・・」

 履いてる靴はスニーカーなのに地面を踏むたびにカツカツと硬い音が鳴る。

 その足は私の正面で綺麗に揃い、止まった。

 ブランの口角が吊り上がる。

「我の能力・・・・・・それは、時空を操る能力だ」

 そして、そう厳かに告げてみせた。

瞳に宿る光が逆光の影の中、強調されて輝く。

「・・・・・・手強そうな能力ね」

 さくらは私の後ろで、そう静かに告げる。

「・・・・・・時空を、操る・・・・・・」

 またずいぶん懐かしい話だが、“虚ろの魔女”を思い出す。

あのとき操っているのは空間だったが、それでも時空を操るというのはアレに近い能力だろう。

だとすればかなり手強い。

しかし、時空を操るという能力で、みこちゃんの偽物を用意出来るとは思えない。

つまり、これははったりかもしれないのだ。

 温い唾を飲み下す。

熱気で歪んだ景色を背に立つブランに尋ねた。

「なら・・・・・・みこちゃんの偽物はどうやって・・・・・・?」

「ん・・・・・・?何のことだ?」

 ブランがとぼける。

いや・・・・・・とぼけ、た?

 それにしては表情が本当に分かってなさそうというか、まったくピンと来ていない感じだった。

 しばらくしてまた表情が変わる。

何か得心がいったようで、再び不敵な笑みが戻ってきた。

「ああ・・・・・・偽物、そうか偽物か。そういえばそういう計画だったな。何を考えていたか大体分かったぞ。我の能力が嘘だと踏んでいたようだが、そうじゃない。我々は一人ではないのだよ」

 ブランの顔が迫る。

思わず後退しそうになるが、なんとか踏ん張った。

 そしてブランは私の胸に人差し指を突きつける。

「な、何さ・・・・・・」

 ブランは私の言葉に、突きつけた人差し指で胸を押して再び元の立ち位置に戻った。

「ふっ・・・・・・我の能力は正真正銘時空を操る能力。確かに我の能力がドッペルゲンガーなら勝算はあっただろうなぁ」

「むぅ・・・・・・」

 正直、偽みこの能力でも勝てるか微妙だったのに、確かにこれでは勝てる未来が見えない。

良い未来来てくれよ、私にも。

勝手にテレビで見たアイドルを思い出して、勝手に嘆いた。

 しかし、良い未来は手繰り寄せることをせずともすぐに訪れた。

それを運んで来たのは、他の誰でもないブランだった。

「さぁ!我の能力の前に屈しろ!我が時空を操る能力によって、既にここは『ギャグ漫画時空』になっている!貴様らが偽物に気づけなかったのもその所為だ!」

「「は・・・・・・?」」

 さくらと私の声が重なる。

「な、何だよ・・・・・・?」

 ブランも思ってたリアクションと違ったのか、急に自信をなくしてこちらの顔色を伺ってきた。

 こっちもこっちで開いた口が塞がらない。

「あ・・・・・・あの、時空を操るっていうのは・・・・・・」

「そのままの意味だが?」

 さくらがその言葉を聞いて、やれやれと肩をすくめる。

「私・・・・・・帰っていいかしら?」

「いいと思う・・・・・・たぶん」

 ブランの言葉は、私たちに希望を与えるのみにとどまらず、違和感の解消までしてくれた。

「ふん・・・・・・分かったぞ。貴様らまだギャグ漫画時空から精神が帰ってきていないな。だからそんな呆けた顔をしている!貴様らの精神抵抗値は低かったからな!その分深く時空に飲み込まれていたのだろう!」

 再びブランの表情に自信が戻る。

どうやらこの人はナチュラルでギャグ漫画時空の住人らしい。

「そんなショボい能力じゃ・・・・・・道具も要らんわ!」

 さっきまでの緊張は何だったのだと、投げやりに地を蹴って跳ぶ。

さくらは本当にどらこちゃんの家に戻ったらしく、姿が見当たらなかった。

「うぐっ・・・・・・!」

 私に思い切り殴られたブランが派手に吹っ飛ぶ。

そのコミカルな動きからして、本当にここら辺はギャグ漫画時空に飲まれているようだった。

別に最早それが何かの不利益になることはないけど。

「このっ!ちくしょう!私の!あーっと・・・・・・返せ!」

 無駄に焦らされた怒りを込めて、ブランに馬乗りになって殴りかかる。

時折うめき声が上がるが、ダメージはしっかり宝石にいってるはずなので痛くないはずだ。

「ちょっと・・・・・・」

「おりゃ!」

「ちょっと・・・・・・!」

「んだオラ、まだ生きてんのか!」

 私の拳がブランの顎を打ち抜く。

ちょっと爽快感すら覚えていた。

「ちょっと待てや!」

 しかし、ブランにお腹を蹴られて引き離される。

今頃ゴローは謎の腹痛に襲われているのだろう。

 砂埃を払ってブランが立ち上がる。

「いくらなんでも、いきなり我をボコ殴りにする奴があるかッ!!」

 ブランは怒りにその肩とドリルを震わせていた。

「いや・・・・・・それはごめん・・・・・・。ちょっと爽快感に理性が飛んでた」

 最早白い上着が土埃で茶色い。

そのブランの姿にはもう登場時のような威圧感はなかった。

「まったく・・・・・・」

 そう言いながら、また砂埃を払う。

 たぶんそれはもう洗濯しないとダメな類いのやつだと思う。

 ブランが再び表情を整えて言う。

「まぁ・・・・・・しかし、ギャグ漫画時空では人は死なん。いくら殴ろうが、我が倒れることはないよ」

「な、何っ!?」

 それは私にも言えてしまうのでは・・・・・・?

それは飲み込んで、とりあえず驚いておいた。

 なるほど確かに、ギャグ漫画時空では人は死なない。

あるいは次回で何ごともなかったように復活するだろう。

だが・・・・・・。

「結局勝敗には関係ないんだよなぁ・・・・・・」

 別に改名戦争では相手の死亡が勝利条件じゃないわけで、普通に勝負は決する。

 言いながら人差し指を水平に一閃する。

ブランは不思議そうにそれを眺めている。

「何をやっている?言っておくが無駄だぞ?」

 やはりブランは私が何をしたかは分かっていないようだ。

 そう、また一つ屁理屈を捏ねたのだ。

私が指先で起こした風を、その空気を固めて不可視の刃とする。

これは今日ワークで理科のページをやっていなかったら出なかった発想だろう。

 やがて透明な斬撃波は、ブランに命中する。

命中した本人も何が何だか分かっていない顔で吹き飛ばされた。

「な・・・・・・何を!?」

 上半身だけ起こして、こちらを指さす。

私はその指を人差し指と中指でつまんだ。我ながら強キャラっぽくてセンスいいと思う。

「あれれぇ、いいのかなぁ・・・・・・?もうここはギャグ漫画の世界じゃないみたいだけど・・・・・・」

 このセリフは言ってる途中で強キャラというか悪役っぽいと気づいて恥ずかしくなった。

さくらがこの場に居なくて本当によかった。

 ブランが何かに気づいて、手のひらを持ち上げる。

その手にはバラバラになった宝石の破片が張り付いていた。

「くっ・・・・・・くそ!我が・・・・・・我が・・・・・・」

 ブランの目の端が震える。

次第にそこには涙が滲んで来た。

「あ・・・・・・」

「くっ・・・・・・覚えてろよ!」

 再びブランが私を蹴り飛ばす。

涙を袖で拭いながら、どこかへ走り去ってしまった。

 何だか納得がいかないと言うか、もやもやして、しばらくその場で立たないでいた。

 泣かされたことは多々あるが、人を泣かせたのはこれが初めてだった。

 今日の勝利は決定的に今までと違ったのだ。

「これは・・・・・・」

 何故ブランが泣き出したのか、それは定かではない。

もしかしたら先程の戦いのようにくだらない理由かもしれない。

けれど、罪悪感の芽は摘むことが出来なかった。

「きらら」

 突然肩が叩かれる。

振り返るとさくらが立っていた。

「終わったんでしょ?早く戻りなさいよ。あっついんだから・・・・・・」

 私の胸中など知らないさくらが、いつもの通りの温度で喋る。

 誰かを泣かせても、自分はいつも通り生きていけることが少し申し訳なく感じた。

「・・・・・・きらら?」

「何でもない・・・・・・」

 さくらに手を引かれて、部屋に戻った。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ