ドッペルゲンガー(13)
続きです。
まだ状況に理解が追いつかない。
何でここが分かったのかとか、ノワールは何でぐったりしてるのかとか、あと水晶が割れたことも、とにかく訳がわからなかった。
「あ、あの・・・・・・とりあえず、それ、どうしたんですか・・・・・・?」
どらこちゃんに引っ張られるままのノワールを指差す。
何だかんだで意識はあるようで、ノワールはお手上げと両手を弱々しく上げた。
「なんか・・・・・・手刀したらこうなった。コイツ結構打たれ弱いぞ」
そう言いながら、どらこちゃんはノワールから手を離した。
ノワールは倒れるでもなくその場で壁に寄りかかり、座った。
「えっと・・・・・・どうしましょうか・・・・・・」
目の前の状況が処理できないで、どらこちゃんに助けを求める。
どらこちゃんはそれに苦笑した。
「まぁ・・・・・・とりあえず帰るべ。たぶんコイツはこのままで・・・・・・大丈夫・・・・・・だと思うし・・・・・・」
ノワールは項垂れたまま親指を立てて応えた。
大丈夫なのか大丈夫じゃないのかますます分からない。
「じゃ・・・・・・ま・・・・・・帰ろう」
どらこちゃんが手を伸ばす。
その伸びてきた救いの手に、しがみついた。
正直、囚われていたという感覚は希薄だ。
でも、嬉しかった。
ちゃんと気づいてくれていたのだ。
どらこちゃんはちゃんと。
外を歩いてきたどらこちゃんの手のひらは私の手より、ずっと熱かった。
その温度をむさぼるように強く握る。
握力は弱いので、どんなに強く握っても痛くならない。
誰かの手を思い切り握れるなら、握力なんてこのくらいでいい。
「なんか今日はやけに力強いな・・・・・・」
どらこちゃんが繋いだ手を持ち上げる。
「久しぶりですからね・・・・・・!」
どらこちゃんの手を引っ張って出口へ向かう。
どらこちゃんは一瞬体勢を崩すが、すぐに横に並んでくれた。
「じゃあね。ありがとう、ノワール!」
そして最後に、ノワールに手を振った。
ノワールは相変わらず親指で応える。
「ありがとう・・・・・・って、何だ?アイツ敵じゃないのか?」
「めっちゃ敵ですよ」
「なんだそれ・・・・・・」
どらこちゃんが私の歯切れの良さに困惑する。
ちょっと面白かった。
「私は・・・・・・私はちゃんと本物ですよ」
閉まったドアの前で言うと、どらこちゃんが笑う。
通り過ぎた風が、どらこちゃんのサイドテールを小さく揺らした。
「んなこた分かってるよ・・・・・・」
蝉の鳴き声に包まれて、集合住宅の金属製の階段を駆け下りて行った。
続きます。




