ドッペルゲンガー(5)
続きです。
「さて、じゃあそろそろ再開しましょうか」
さくらが勉強会の再開を宣言する。
どらこちゃんも微妙な顔をしながらも、お盆をどかした。
「ほら、あんたもそんな顔してないでさっさとワーク開きなさいよ」
「えぇー」
さくらに言われるが、まだそういう気分にはなれない。
というか元々今日は遊ぶつもりで来ていた。
いや・・・・・・予定では勉強会だったけど、何だかんだで遊ぶことになるだろうなぁと思ってたのだ。
「もうちょっと・・・・・・あと五分だけぇ・・・・・・。みこちゃんもそう思うよねぇ」
「いいんじゃないんですか」
「え?」
意外な反応だったので、自分で聞いておいて驚く。
いきなり話を振られて、慌てて答えただけなのかもしれない。
「・・・・・・あ、嘘です。ダメだと思います!」
どうやら私の推測は正解だったらしく、すぐに本人による訂正が入った。
さくらも私のやられっぷりを見て、吹き出している。
どらこちゃんは、何故だか不思議そうな顔をしていた。
「あんたねぇ・・・・・・人を巻き込むんじゃないわよ」
さくらの手で私の頭に私のワークが振り下ろされる。
勢いがないから痛くはなかった。
「ひっでぇことしやがる・・・・・・」
「いや、口悪っ・・・・・・」
頭をさすって悔しがっていると、普段口調が粗暴などらこちゃんにもツッコミを入れられてしまった。
みこちゃんはそれに気まずそうに笑う。
「ちぇー」
渋々ワークを開く。
開いたページにはまだ空欄ばかりだった。
文句を垂れつつも、やることはやらなければならないので問題を解き進める。
今度はさくらの助言もないので、なかなか苦戦していた。
考えても何も浮かばず、頭の中に活字が降り積もる。
えんぴつを鼻に挟んだり、耳にかけたりしてみるが当然答えは分からない。
「遊んでんじゃないわよ、もう・・・・・・」
「あだっ」
耳にかけたえんぴつがさくらの指に弾き飛ばされる。
えんぴつはテーブルを少し転がって止まった。
「むぅ・・・・・・」
多少ふくれながら、えんぴつを拾う。
それを見かねたどらこちゃんが、ちょっとした豆知識を披露した。
「いいか、きらら。集中を長続きさせる方法を教えてやろう。ほれ」
そう言って、どらこちゃんがみこちゃんの髪の毛を一本引き抜く。
「いたっ」
みこちゃんは恨めしそうにどらこちゃんを見上げた。
その怨嗟な視線を受け流してどらこちゃんが続ける。
「髪の毛を抜いたときの痛み、これが集中力維持の秘訣だ」
「いや、絶対嘘じゃん」
「バレたか」
最初から騙すつもりもなかったのか、平然と白状する。
というかそんな嘘の為だけに、普通友達の髪を抜くだろうか。なんだかどらこちゃんらしくない。
さてはこいつ偽物か?
「・・・・・・な訳ないか」
どらこちゃんから視線を外し、ワークに戻った。
問題文を見ていると、しだいにその問題文が何を言ってるのかすら分からなくなりそうになる。
えんぴつを咥えて、腕に顎を乗せる。
「ちゃんとやりなさいよ・・・・・・」
さくらが呆れながら口からえんぴつを引き抜くと、ぶつかった歯が音を立てた。
さくらが立ち上がり、私の背後に回る。
「まったく・・・・・・今度は何が分からないのよ」
てっきりお仕置きかと思ったが、教えてくれるみたいだった。
問題集と向き合って、時間はゆっくりと流れていく。
まだまだ休憩は遠そうだ。
続きます。




