ドッペルゲンガー(3)
続きです。
一区切りつけたさくらが、腕を組んで私たちを監視している。
これで私たちはもうサボることが許されなくなったわけだ。
最初こそ渋々といった感じだったけれど、一度始めてみれば結構集中出来た。
監視の目も、間違ってたら教えてくれるし、圧迫感以外の弊害はない。
欲を言えばもう少しストレートに答えを教えて欲しいけれど。
どらこちゃんも一度始めると早かった。
さくらの指摘も少ないので、正答率も高いのが分かる。
しばらく集中して問題を解いていると、突然どらこちゃん家のチャイムが鳴った。
「お」
その音に集中が絶たれる。
さくらは私の集中が途切れたことに気づいたようだが、それを咎めることはしなかった。
「来たみたいね。丁度いいから休憩にしましょうか」
「あたしは迎えに行ってくる」
どらこちゃんがテーブルを離れる。
おそらく今来たのはみこちゃんであろう。
それはどらこちゃんもさくらもそう思っているみたいだ。
しばらくしてどらこちゃんが引き連れてきたのはやはりみこちゃん。
私がすっかり日焼けして黒くなっているのに対して、みこちゃんは綺麗な白い肌をしていた。
「お邪魔します・・・・・・」
やって来たみこちゃんが、テーブルのそばに腰を下ろす。
その横にどらこちゃんも座った。
「いらっしゃい。今休憩中だから好きにしていいわよ」
「さくらがそれを言うのか・・・・・・」
「あら、きらら。もう休憩終わりでいいのね」
「・・・・・・」
どらこちゃんが再び立ち上がる。
「どこ行くんですか・・・・・・?」
見上げるみこちゃんに
「飲み物かなんか持ってくるわ」
と答えた。
そしてどこかの部屋に姿を消す。
みこちゃんはそれを見届けてから、正座していた足を崩して寛ぎ始めた。
みこちゃんにしてはだらしない姿勢で、珍しく感じる。
みこちゃんでもこういうところあるんだなぁと軽くシンパシーを感じた。
「どうしました?」
私の視線にみこちゃんが訝しげにこっちを見る。
なんだか表情の作り方に違和感を覚えた気がするけど、たぶん気のせいだ。
「なんでもないよん」
そう答えてテーブルに突っ伏した。
別に眠いわけじゃないけど、今はこうしていたい気分なのだ。
「あ゛ー・・・・・・」
テーブルで頬を潰して、息を吐く。
伸びをするように腕を伸ばすと、さくらに指先をつままれた。
「ま、あんたにしては頑張ったじゃない」
その口から溢れるのは珍しくお褒めの言葉だった。
「いぇい」
「あら、馬鹿にしたつもりだったのに」
つままれた指がデコピンで弾かれた。
「ほれほれ、きらら手をどかせー」
そんなことをしていると、どらこちゃんがお盆を抱えて戻ってくる。
お盆の上の飲み物はたぶん麦茶。
透き通った茶色にたくさんの氷が浮いている。
言われた通り腕をどかす。
どらこちゃんはみこちゃんの姿勢に視線を注ぎつつも、テーブルの中央にお盆を置いた。
みこちゃんはどらこちゃんの視線に何か思ったのか再び正座に戻った。
どらこちゃんは麦茶の入ったコップを持ち上げて、口をつけながら座る。
さくらもそれを見てから麦茶を手に取った。
私も麦茶に手を伸ばす。
コップの表面は濡れていて、触れる前から冷たいのが想像出来た。
コップを掴んで一気に麦茶を流し込む。
冷たい液体が喉を通るのが心地よかった。
「やっぱ夏は麦茶よなぁ」
「あんたもう飲んじゃったの・・・・・・」
「まぁ麦茶ならまだ全然あるし、構わんぜ」
とのことなので、躊躇いなく飲み干せた。
みこちゃんもこの暑さの中歩いてきたのもあって喉が渇いていたのか、私と同じようにして一息に飲み干してしまった。
「いい飲みっぷりだな」
どらこちゃんもその豪快な飲みっぷりを見て機嫌を良くする。
「そうね」
さくらもそれに準じた。
「さくら、私のときとリアクション違うじゃん」
「あんたがやれば野蛮、みこがやれば爽快」
「あれ?私馬鹿にされてる」
「疑いの余地なく、な」
どらこちゃんが苦笑い。
私はそれにヤケクソでおかわりを求めた。
続きます。