ドッペルゲンガー(2)
続きです。
ひび割れたアスファルトの上を雲の影が流れる。
蝉の声もうるさくなってきて、いよいよ真夏といった感じになってきた。
鋭い日差しが肌を焼く。
海水浴から帰った日のお風呂はこの日差しの所為で酷いことになった。
肌は真っ赤でほとんど火傷みたいなものだ。
お母さんやさくらちゃんみたいに日焼け止めを塗っておけばよかった。
どらこちゃんときららちゃんが日焼け止めを使わなかったからといって、それで大丈夫な理由にはならない。
まぁその日焼けも今ではすっかり元通りだ。
どらこちゃんときららちゃんは見事に小麦色に仕上がったけれど、私は元の色に戻ってしまっている。
黒くなる人とならない人は一体何が違うのだろう。
そんなことを考えながら、どらこちゃんの家に向かう。
今日はみんなで宿題をやるっていう話だけれど、捗っているのだろうか。
「捗ってないんだろうなぁ・・・・・・」
自然と顔がニヤける。
二人がさくらちゃんに怒られているのが、簡単に想像出来た。
地面を蹴る足を速める。
「きっとさくらちゃんだけじゃ大変ですね」
しかしその足が突然止まる。
私の目は夏の田舎道に似つかわしくないものを見つけた。
それは女の子だった。
夏だって言うのに真っ黒なパーカーを着て、フードまで被っている。
フードの影から覗く肌は白く日に焼けた様子はない。
何かの病気かはたまた怪我でもしたのか、右目には眼帯を着けて、手には包帯を巻いている。
ミニスカートから伸びる太ももにも包帯が巻かれていた。
その子の左目が、私の目を覗く。
「あっ・・・・・・なんでもないです!」
外見のアクの強さに嫌な予感がして目を逸らして、その場から逃げ出すように駆け出した。
「まぁ待て」
女の子の静かに放った声に、その視線に、射すくめられる。
大きな声でも、威圧感のある声でもなかったのにまったく身動きが取れなくなってしまった。
女の子の足音と、声が背後から聞こえる。
「どの道君は“百鬼夜行”の目から逃げられない。君たち、ずいぶん有名になったじゃないか。海水浴場で活躍したみたいだね」
海水浴場での出来事は確かに少し話題になった。
テレビでもやっていた。
しかし、それだけで私たちの特定に繋がるとは思えない。
「あなた・・・・・・何者ですか?」
少なくとも味方ではないであろう少女に尋ねる。
私の肩にその少女の手がかけられた。
白く細い指が、私の肩に食い込む。
「何者でもないさ・・・・・・。ただ進化に魅せられた者の一人。百鬼夜行はユノ様の目だ。誰一人逃がさない」
「っつ・・・・・・!」
肩を引っ張られて、強制的に振り向かされる。
鼻がぶつかりそうなくらい近くに少女の顔があった。
少女が私の目を覗き込んで、右目の眼帯を外す。
その瞳は不気味に光っていた。
その光が私の目にまで入り込む。
何故だか分からないけれど、意識が遠のき始めた。
「な、何・・・・・・を?」
状況が分からず、ただ手を伸ばす。
「採寸完了」
薄らいでいた意識が、その言葉を最後に途切れる。
私の意識は底のない闇に転がり込んでいった。
続きます。