海といろいろ(24)
続きです。
夕暮れの中、帰りの自動車のハンドルを握る。
あの後食べたスイカは微妙にしょっぱかった。
海からはだいぶ離れたが、まだ波の音が耳に張り付いている。
行きとは違い、帰りの車内は静かだった。
四人とも寝息を立てて、車に揺られている。
かく言う私も、瞼の奥に眠気が絡まっていた。
事故でも起こしたら大変だ。
しかし子供たちのエネルギーというのはすごいものだ。
あんなことがあったのに、普通に遊んで、そして今普通に眠っている。
大人になって頭の柔軟さを失ったのか、私は正直まだ処理出来ていない。
「子供は無敵ね・・・・・・」
あくびを零してひとりごちる。
「無敵ニャ」
みこが膝の上に抱えてるぬいぐるみが相槌を打った。
とりあえず今思ってるのは、明日は筋肉痛だなぁーって・・・・・・。
一日の終わりのオレンジに、そんな何でもないことを感じた。
ぼーっと天井を見つめる。
あれから数日経って、今はベッドの上で溶けていた。
近いうちにまたどこかに出かけるような予定は取り付けていない。
一大イベントを消化した後の私は、ただ怠惰に天井を見つめていた。
「あ゛ー・・・・・・」
「何ニャ・・・・・・?」
「あ゛ー・・・・・・!!」
「だから、何ニャ?」
「暇」
まだ夏休みは終わらない。
でも私は一つの到達点というか、頂上に至ってしまって気力が抜け落ちていた。
「またどこか行けばいいじゃないか・・・・・・。まだ日はあるニャ・・・・・・」
「・・・・・・んー」
たぶん私の心はまだあの非日常から戻って来ていない。
色々と、あの海に置いてきてしまったのだ。
だから、そのままの意味で心ここに在らず。こうやって溶けている。
「きらら、お友達から電話!」
下の階から、おばあちゃんが呼ぶ。
「今行く・・・・・・!」
そう答えて、電話のもとへ向かった。
おばあちゃんの手から、受話器を受け取る。
聞こえてきたのは、やはりさくらの声だった。
「・・・・・・どしたの?」
用件を尋ねながら、電話台のわきにしゃがむ。
『あのイカ・・・・・・結構話題になってるみたいよ。この前ニュース番組で取り上げられてた。今まで観測されたアンキラサウルスの中でも大きい部類らしいわよ』
「ほぇー・・・・・・」
『何よ・・・・・・あんまり興味無さそうじゃない・・・・・・』
だってあのイカがおっきかったとして、それでどーしたって話じゃないか。
アンキラサウルスの専門家なら何か思うことがあるのかもしれないけど、私は知ったこっちゃない。
『・・・・・・それに関連して、あんたもちょっと話題になってるのに・・・・・・』
「え・・・・・・まじ!?」
そうとなれば話は違う。
海水浴場を救った英雄みたいな感じで・・・・・・こう!
妄想が膨らむ。
これはもう自分の目で確認するしかなかった。
『あっ・・・・・・ちょっと!』
電話を投げ出して、居間に向かう。
部屋に入ってすぐにテレビを点けた。
「ニュースは・・・・・・と」
チャンネルを回すが、それらしいニュースはない。
あれから何日か経っているし、報道され尽くしてしまったのかもしれない。
「ちぇ・・・・・・なんだよもう・・・・・・」
ニュース番組は何だか今流行っているらしい小学生アイドルを映している。
ツインテールの明るい感じの子だ。
「・・・・・・やれやれ、超巨大アンキラサウルスが出たっていうのにアイドルなんか取り上げちゃって・・・・・・」
もっと他にやることがあるだろう。
もっと他に!
画面の中のアイドルが満面の笑みで画面越しの視聴者を指差した。
『あなたにも・・・・・・もっといい未来が来ますように』
もう私について取り扱っている番組はないと諦めて、テレビの電源を切る。
「まったく・・・・・・」
呆れながら、畳の上に体を横たえた。
障子の隙間からゴローが顔を覗かせる。
「きらら、電話・・・・・・。さくら怒ってるニャ」
「あ・・・・・・」
やっべ。
急いで体を起こし、ダッシュで電話へ向かう。
電話まで後三歩。
言い訳が思いつくまで三歩で足りるだろうか。
続きます。