海といろいろ(14)
続きです。
太陽の熱を蓄えた岩の上に寝転がる。ゴツゴツしていて硬いので、当然寝心地もあまり良くない。
「何やってんだ、きらら?」
「太陽のエネルギーを蓄えているのさ」
どらこちゃんの質問に適当に答える。どらこちゃんも特に理由がないのを察したのか、それ以上の言及はなかった。
あれからいくらか時間も経って、太陽の位置も少し変わっている。時間の経過は人体に多かれ少なかれ影響をもたらすものだ。歳をとったり、お腹が減ったり......そして今の場合は。
おもむろに立ち上がって、海に飛び込んだ。
水飛沫が上がって、体は海水にどっぷりと沈む。細かい泡が弾けて浮かび上がった。
その泡の後を追うようにして私も海面から顔を出した。
さくらが岩場から覗く。
「どうしたのよ......急に」
「いやー......ちょっとトイレ行きたくなって」
「なんでそれで海に入るのよ......」
水の中はやはり気持ちよかった。
体に纏わり付いた熱が一瞬にしてほどけていく。サウナ上がりの水風呂的な。まぁサウナなんて入ったことないけど。
「ちょっと!早く上がってきなさいよ!」
さくらが呼ぶ。
私が海中で放尿しないかを気にしているのだろう。半分冗談なのに。
「ちょっと待ってて」
「いや、今すぐ!」
言われて仕方なく上陸する。
足跡が着いたそばから乾いて消えていくのが面白かった。
「やれやれ、私が漏らしちゃっても知らないぞぉ......」
「海中は漏らした判定なのよ......!」
私たちのやりとりに、みこちゃんたちもこちらを覗く。
「どうしました......?」
「いや......きららがトイレ行きたいみたいなのよ」
「別にそこまででもないし!」
実際はそこそこ行きたいのだが、さくらに言われるのは癪なので否定する。
「まぁ、どっちにしろそろそろ戻るか?腹も減ったし」
どらこちゃんが戻ることを提案する。やたら「食べられるか?」に思考が繋がっていたのは空腹の所為だったのかもしれない。
詳細な時間は分からないが、確かにお昼には丁度いいくらいかもしれない。私のお腹もそう言っている。
「そうですね」
「そうね」
どらこちゃんの提案に二人も同意する。さくらはさっき食べてたけど、お腹減っているのだろうか。
「じゃ、じゃあ......戻ろっか」
空腹も尿意も我慢はよくない。
ご飯の後だってまだまだ遊ぶ時間はあるのだ。
意見がまとまったところで、大人の女の人が駆け寄る。
誰かと思えば、みこちゃんのお母さんだった。
「君たちこんなところに居たの......」
駆け足で来たみたいで、息がきれていた。
額に汗を浮かべながら、前を開いた上着で体を扇いでいる。
「まったく......そろそろ、お昼にしましょ。ちょっとしたお楽しみもあるからね」
お母さんが悪戯っぽく笑う。
その表情はやっぱりまだ若々しく見えた。
「あれだね」
「あれね」
私とさくらは、“お楽しみ”の正体を既に知っている。クーラーボックスの中の丸くて甘いアレだ。
「何のことだ?」
「何のことでしょうね......」
何も知らないどらこちゃんたちの姿を見て内心ニヤついていた。きっとさくらも同じだろう。
「てか、荷物は誰が見てるの......?」
「あの猫くんに任せてるけど......」
それでいいのか......。
私たちがただひたすら待っていたあの時間はいったい何だったのだろう。
かくして、私たちはみこちゃんのお母さんを先頭にビニールシートへ戻るのだった。
続きます。