表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
103/547

海といろいろ(13)

続きです。

 まだ何か居ないだろうかと指で水面を弾いていると、見慣れない姿のものを見つけた。

大きさはほんの数センチ程。

色も周りの景色に混ざるような具合であまり目立たない。

ただその姿は異様だった。

砂に沈むようで全体像はよく分からないが、無数の触手のようなものを伸ばし揺れている。真上から見ると、ちょうど絵に描いた太陽のような姿をしていた。

「うげぇ......何これ、きもちわる」

「何だ?何だ?」

 どらこちゃんがひょこひょここちらに中腰で歩み寄る。

私はその視線を指で導いた。

「うわ、きも」

 飛び出すのは私と同じ感想。

誰の目で見ても気持ち悪く映るみたいだ。あるいはナマコも平気で触れるみこちゃんなら、そうは思わないのかもしれないけれど。

「ねぇ、さくらぁ......これ何ぃ?」

「何よ......?」

 私が呼ぶと、岩に張り付く貝を力一杯剥がそうとしていたさくらがそのままスライドしてやってくる。

みこちゃんも気づいたらどらこちゃんの側に回り込んでいた。

「これこれ......」

 さくらの顔を覗きながら、グロテスクな触手の集合体を指さす。

その答えはすぐに返ってきた。

「なんだ......イソギンチャクじゃない」

 さくらはなんでもないように言う。

ナマコのことといい、さくらは結構生き物に詳しいのかもしれない。

「ちっちゃくてかわいいですね」

「え......」

 みこちゃんが笑う。

その純粋な笑顔には嘘なんてあるはずもない。本気で言っているみたいだ。

ナマコの洗礼を受けただけあって、なかなか強い。

「これ、食べられるのか?」

 それカニのときも言ってなかったっけ。

どらこちゃんの思考回路はまずそこが出発点なのだろう。

 私は流石にこのビジュアルからは食欲に繋がりそうにない。

食べられるとしても絶対に食べないだろう。ナマコと一緒で。

「さ、流石に......食べられないんじゃないかしら......?」

 さくらもどらこちゃんの言葉には苦笑いだ。流石に食べられないのだろう。

 イソギンチャクの触手は、まるで一本一本別々の意思を持っているみたいに不規則にうごめく。

その動きに誘われて、恐る恐る指を近づけた。

「あっ......」

「どうした......?」

「イソギンチャクって......触って大丈夫な生き物?」

 人差し指が触手に触れる前に、不安になってさくらに確認をとる。

さくらは「私は図鑑じゃないのよ......」とボヤきつつも答えてくれた。

「触っても大丈夫よ。種類によっちゃダメだけど」

 さらっと怖い情報が付け足される。

これからもやたらに触らずに図鑑として活用させてもらおうと思った。

「よぉし、触るぞ......触るぞ!」

 別に触らなくてもなくてもいいはずなのに、そう意気込んで中央に指先を突っ込む。

「ふっ......!?」

 その瞬間、花弁のように開いていた触手が閉じ、その動きに指も巻き込まれていった。

今まで感じたことのない感触に、腰が引ける。しかし指は離さなかった。

 吸い付くような独特の感触。

最後にはキューっと締まるようにして、その力の強さに驚かされた。

 若干ビビっている私を尻目に、みんなもイソギンチャクの不思議な動きに集中している。

「触るとこんな風になるんですね」

「ナマコよりはだいぶマシな反応だな」

 みこちゃんとどらこちゃんが、そのままの感想を各々口にする。

 さくらも私の反応を楽しみようにニヤついていた。

「どうよ?ちょっと面白かったでしょ?」

「な、なんか......よく分からないけど、ちょっとえろい......」

「......」

 さくらが私の感想に無言で答える。

私も言っておいて「これはないな」と遅まきながら思った。どらこちゃんたちには聞こえていないことを祈るばかりだ。

「えっちは......ちょっと......」

「ないな」

 ばっちり聞こえていた。

恥ずかしそうにするみこちゃんを見ると、こっちまで更に恥ずかしくなってしまった。

「うぅ......」

 誤魔化そうにも誤魔化しようがなくて唸っていると、さくらが分かったような顔で肩を叩く。

「そういうこともあるわよ」

 頬が震えているので、笑いを堪えているのがすぐに分かった。

 指を突っ込んだ後のイソギンチャクは閉じたまま開かない。

恥ずかしさを紛らわそうと目を泳がせていると、再びイソギンチャクを見つけた。

 ほとんど八つ当たりで指を突っ込む。イソギンチャクは変わらない反応を見せてくれた。

「これ、結構気持ちいいのよ......?」

 さくらも自分で見つけたイソギンチャクに指を突っ込む。

どらこちゃんたちも興味が湧いたようで、その姿を探しはじめた。

「うぅ......」

 まだ頬が冷め切らないので、私もイソギンチャクを探し続ける。

指先に残った感触を思い出すと、確かになんとも言えず気持ちよかった......気がした。

 さくらが私の耳元で囁く。

「因みに......水中から出てるのを押すと更にえっち......かもしれないわよ」

「うっさい......!」

 何かと思えば私の傷口を抉ってきた。

言葉の後ろに笑い声が混じっている。

まんまと望み通りのリアクションをしてしまったみたいだ。

 この恨みはいつか晴らそうと、そう誓った。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ