海といろいろ(11)
続きです。
岩の上に並んで立つどらこちゃんとみこちゃん。
どらこちゃんは隣に立つみこちゃんの手の中をやや引き気味に見ている。
私たちも同じように、その手の中に視線が吸い寄せられた。
「な、何......?それ......」
答えは分かっているが、恐る恐る指をさして聞く。
その手に握られているものは例えるとするなら、デッカいかりんとうみたいな姿をしている。悪く言えばデッカいウン......。
「ナマコ!ナマコですよ!私初めて触りました!」
みこちゃんは嬉々として語る。
動きに合わせてナマコがゆらゆら揺れた。
「......よ、よく触れるわね......」
そう言うさくらは及び腰だ。
私も触りたいとは思わない。気持ち悪いし。
「ナマコって、結構普通に居るもんなんだな」
どらこちゃんがナマコを少し距離を置いて眺める。
「食べられるんですよね」
「食べ......」
私も思わず絶句する。
この気味の悪い生き物を食べるというのか。一人で勝手に想像して勝手に戦慄した。
「柔らかくて結構きもちいですよ。さっきは硬かったけど」
「ああ、なんか刺激で硬さが変わるらしいわね。そして最後には......」
さくらの言葉を聞いて、みこちゃんがナマコを揉み始める。
実際に触らなくても分かるくらいに、明らかに質感が変わっていった。
「おお......」
みこちゃんも目を丸くしてその変化を楽しんでいるみたいだ。
さくらがおもむろに私の背後に隠れる。そして先程の言葉の続きを口にした。
「そして最後には、内臓を吐き出す......らしいわ」
「え......」
内臓を吐き出す。
そんなことをして生きていられるのか。しかしそんなことよりも、その様を見たくないという思いが先行する。
「みこちゃん!その手を離......」
「ひゃっ!?なんか出た!!」
私が言い終わる前に、みこちゃんが驚いてナマコを海に取り落とす。
それは先程私たちが泳いでいた場所に沈んで行った。
幸いみこちゃんの拒否反応が早かったので、私も鮮明にナマコの臓物を見ないで済んだ。
ただし自らの手の中で事が起こったみこちゃんと、それを比較的近くで眺めていたどらこちゃんはすっかり青ざめている。
みこちゃんが無言で、それもやたら硬い動きで海水に手をつけ、そして洗う。そのぎこちない動作が言っちゃ悪いが硬直したナマコと重なった。
「あ、はは......。とりあえず、また何か探しに行こうか」
どらこちゃんがぎこちなく提案する。確かにここは磯の隅っこの方に過ぎない。もっと見るべきものがあるだろう。
「さくら。今度はもうちょっと早めに教えてよね」
「海は危険ってことよ」
さくらは何故か鼻高々と誇っているようだった。
みこちゃんがまだぎこちなさの抜けない動作で立ち上がる。
そんな有様のみこちゃんにさくらがフォローをした。
「あれはこのわたよ。見たもの触れたもの食べ物だから大丈夫」
「この......わた......」
みこちゃんが自分の手のひらを見下ろす。すると感触を思い出したのか、再び青ざめた。
「トドメ刺したな」
「ね」
さくらが知らん顔で歩き出す。
「いつか思い出になるわよ!きっと。しなさい!」
その口ぶりは何と言うか投げやりだった。
思い出になるかはともかくとして、忘れられない出来事にはなっただろう。
続きます。