海といろいろ(10)
続きです。
ある程度沖に出ただろうか。
地面はまだ見えるが、足はもう届かない。
海面から頭を出した時の水がちゃぷちゃぷ鳴る音が心地良かった。
「ん?どうしたのよ?」
さくらが私より少し先で振り返る。
なんだかんだで私より先に進んで、沖に向かっていた。
「なーんでーもなーい」
答えながらさくらの横に並ぶ。
私たちの周りには誰も居ないわけじゃないけれど、少なくとも同い年くらいの子は見当たらなかった。
それだけで軽い優越感を覚える。
「そろそろ折り返しじゃない?」
「そうね」
後は斜めに突っ切って磯を目指すだけ。
そうだと断言は出来ないが、どらこちゃんたちらしき二人組が岩場を歩いているのが見える。しばらくすると何かを見つけたのか、しゃがんで眺めていた。
さくらがそちら側へ頭を出した平泳ぎでのんびり泳ぎ出す。
私もその後に続いた。
しかし、せっかくある程度深い場所まで来たので真下へ潜る。
沖の方では浅瀬より波の影響が小さいように感じた。
潜った海は圧倒的に広い。
人間なんて陸上での方が自由に生きられるのは当然のことなのだけれど、重力から解放され手足がどこにも届くことのないこの空間がとても自由だと感じた。
手を大きくかいて、水を押す。
体はスムーズにゆったりと前に押し出された。自分が作った小さな水流が太ももを撫でる。
それがまた心地良くて、だから伸びをするようにまた前へ進んだ。
私の視界を大量の泡が横切る。
何かと思って見ると、さくらも潜ってきたみたいだった。潜るにあたって額でスタンバッていたゴーグルが目にかぶさっている。微妙に似合ってなかった。
お互い言葉も交わさず......っていうか交わせない。そんな中で何を言うでもなく並んで泳いだ。
気分はもうイルカ。実際のイルカが見たらナマコが流されてるくらいな印象かもしれないけど、それでも人間なりの水中の自由を堪能していた。
息をしに海面に出る。
私に追随してさくらも浮上してきた。
磯はもうそう遠くない。
「もう少し......だね」
「そうね。競走でもする?」
「いいね。......泳ぐ場合でも競走なの?」
「正しくは競泳ね。たぶん」
スタートの合図もなく突然さくらが泳ぎ出す。不意打ちをしてでも勝つつもりみたいだ。
「大人げないぞ!」
「そんなこと言いながらちゃっかり同タイミングで出発してるじゃないの......」
まぁお互いに不意打ちが空振ったというわけだ。貝集めのこともあるので、ズル度はむしろ私の方が高いかもしれない。
砂浜から飛び出た消波ブロックの横を通過する。
さくらも私も何故か潜って泳いでいた。たぶんその方が気持ちいいからだと思う。
消波ブロックを超えるとガラッと景色が変わる。
私たちを取り囲むのは岩ばかり。徐々に深くなっていく砂浜の方とは違い、場所によって深さはまちまち。今私たちが居る場所は陸のすぐ近くなのに足の届かない深さだった。
一足先にさくらが陸に上がる。
私は遅れて岩に掴まって、陸へ上がった。
「負けたぁ......」
「あんた泳ぐのは結構速いわね」
さくらは記憶していないようだが、水泳の授業のタイムでは一応私が勝ってたりする。
ちょっとだけご無沙汰だった日光を全身に受けて、伸びをする。
暖かくて気持ちよかった。
「さて、どらこちゃんたちは......」
言いながら辺りを見回す。
先に見つけたのはさくらだった。
「もうこっちに気付いてるみたいよ」
さくらと同じ方向を向く。
みこちゃんたちが、小走りでこっちに向かって来ていた。
ちょっと危なっかしい。もし転んだりしたら大変だ。
しかし二人とも足を滑らせることなくこちらへ辿り着く。
こうして私たちは再び合流したのだった。
続きます。