プロローグ2
大精霊。
それは普通の精霊よりも高位の存在であり、契約した際に得られる恩恵も絶大。
大精霊の中でもこの世界では有名な5人の大精霊がいる。
その名前も五感大精霊。
1人目は目の大精霊。この大精霊は5人の中でも特に有名であり、契約主を作らないことでも有名だ。なので恩恵も不明。だが噂ではそれはそれは凄まじい恩恵だという。
2人目は鼻の大精霊。この大精霊は男好きの大精霊で有名だ。恩恵は「嗅覚向上」
一見雑魚そうだが、この恩恵のおかげで色々なものを察知できるのだ。例えば毒の察知。命を狙われやすい人は是非とも欲しい恩恵だ。
3人目は口の大精霊。この大精霊はとても友好的な大精霊ということで有名だ。恩恵は「暴食」
食べれば食べるだけ身体能力が上がるという能力。かなりチートな恩恵だ。
4人目は手の大精霊。この大精霊は今どこかの国のお偉いさんと契約しているらしい。この恩恵は「鑑定手」触れたもの性質がわかるという能力だ
最後の5人目。耳の大精霊。この大精霊は違う意味で有名だ。大精霊にも関わらず、恩恵が精霊並み。能無し大精霊の二つ名が有名だ。恩恵は「耳が良くなる」本当にこれだけだ。
それ故にいつも耳の大精霊イルフィスは孤独だった。 寂しかった。
だからいつも【世渡りの魔法】で違う世界に行き、一人旅に明け暮れていた
そしてある世界に来た。
そこで見つけてしまったのだ。
自分と同じ孤独な人
今にも消えてしまいそうな、そんな人。
イルフィスはその人物に引き寄せられるかのように近づいた。本能的に近づいてしまった。そして声をかけた。
「ねえ…私と友達にならない?」
______________________
「ねえ…友達にならない?」
「え?」
突然聞こえてきた声は一体誰なのだろうか。透き通るような声、聴いているだけで心地よい声。それよりも、いつ近づいてきてのか分からなかった。全く羽音がしないのだ。そもそも精霊なのだろうか? だがなんとなく精霊な気がした。
というかそもそも僕と友達に?この子も僕の魂が?…いや無いか。だって僕の魂は汚いんだから。目も見えないし。 彼女は僕が目が見えないのを知っているのだろうか。
僕はいつも目を開けてるからそう思っていないかもしれない。でも目線は合っていないだろう。
「君は僕の魂が見れないの?こんなに汚いんだ。それに僕は目が見えない。もう…何もできないんだ」
「関係ない!魂なんて。目なんて!私は、君がいいんだ。君の魂でもなんでもなく、君がいいんだ。」
ずっと欲しかった言葉。誰かに言って欲しかった言葉。カラカラに乾き切った歩の心に染み渡っていく。
「…なんで」
「私は、イルフィス。耳の大精霊なの。」
「え!?大精霊!?」
歩は驚愕する。無理のない。大精霊はそれ程までに珍しく高位の存在なのだから。
「そんな大層なものじゃないよ?能無し大精霊の二つ名で通って程だもん。 だから、同じ雰囲気の君に目を惹かれたんだ」
「同族嫌悪しないの?」
「しないよ、むしろその言葉の意味が理解できないや。だって同じもの同士って最高じゃない!」
「そっか…そっか」
不思議と口から笑みが溢れる。ずっと欲しかったもの。ずっとずっと憧れてたもの。もう諦めていたものが今手に入った瞬間だった。
「…ふふはは!!」
突然大精霊が笑い出す
「どうしたの?」
「私、初めての友達なの…今すっごく嬉しい」
「僕も。僕みだよ。今走り出したい気分だよ!あ、そういえば名前聞いてなかった。僕は佐々木歩。君は?」
「私はイルフィス。よろしくね?」
この出会いが歩を大きく変える事になるとはまだ知らない。
______________________
「歩くん!あーそーぼー!!外は太陽が出てポカポカで気持ちいよいよ?」
友達になった翌日、窓からそんな声が聞こえてくる
「あーでもごめん。僕目が見えないから外に行けないんだ。行きたいのは山々なんだけどね」
ヘラっと笑って見せる歩。
「そっか…ねえ歩くん。もしよかったら、わ…私と契約してみない?」
“契約”
この言葉を聞くと、どうしてもあの日のことがフラッシュバックしてしまう。
だから正直、もう契約はしたくないと思っていた。つい最近までは。
でも今は違う。魂じゃなくて、僕という人間を見てくれるイルフィスなら。
「えっと…私の恩恵は『耳が良くなる』実はこれ使える場面が限定されるんだけど歩君なら万能になるんだよ。声を発さないと出来ないけど、声が物に跳ね返って位置が分かるみたいな…。コウモリみたいな感じかな?…それで…どうかな?」
「いいよ」
「本当?」
先程まで不安げだった声音が一気に明るくなる。
イルフィスと出会うまでは目が見えるようになりたかった。だけど見えなかったからこそイルフィスと会えたんだって思うと、目が見えなくてよかったって思ってしまっている自分がいる。
とうとう自分はおかしくなってしまったのかと思っていると
「じゃあ契約に儀式を早速始めちゃうね?私が喋り終わったら『誓います』って言ってね」
イルフィスの声が少しだけ緊張していた。
「うん」
「私、大精霊イルフィスの名において、人族佐々木歩を契約主と認め、互いに支え合う事を誓います。」
契約をしていると、体が暖かい何かに包まれる。
「誓います」
______________________
「ふぅ、おわったー!!早速声出してみて!!」
なんだが凄く緊張してきたな
「…あーあーあ、」
声出した瞬間、世界が変わった
見えるようになった。
正確にいえば物の位置が分かる感じだ。色とか模様は一切わからないが、形はわかる。それが嬉しくて堪らなかった。
そして何よりもイルフィスが見えた。目の前に。
そう目の前にだ。
「……ちょ、近いよイルフィス!!」
動揺でイルフィスの肩をグイッと押し出す歩。
「ごめん!だってー嬉しかったんだもん!!」
「てか気になるんだけど、精霊なのにどうして僕と同じ大きさなの?」
「精霊って言うのはエネルギーの塊なんだよ、でもより高位の大精霊ならそれ以上。だから形に囚われないんだよ。だからかなぁ」
歩の部屋を物色しながらイルフィスは答える。
「エネルギーって何?」
「うーん難しい質問だね、魔力でも無い別の何かって考えてよ!」
「ごめん…魔力って何?」
「あ、そっかこの世界は魔力って概念ないのか。」
「もー!イルフィス僕の部屋物色しないでちゃんと答えてよ!!今手に持ってるおやつはあげるから!!」
「ごめんごめん、この世界のものはどーも珍しくってね…じゃあ詳しく説明するね?」
そう言い、おやつを頬張りながら歩の前に正座し説明するイルフィス。
「まず、魔素という概念を教えるね?魔素って言うのは酸素みたいに私たちの周りにたくさんあるんだよ。そして魔力って言うのは絶対生物は持ってるんだよ。そこら辺を飛び回ってる鳥や虫もね。その魔力を鍛えて、魔法が使えるんだよ!」
「僕も使えるの?本当?イルフィス教えてよ!」
自分も使えると知り、胸が高鳴る歩。
「あー無理だね…理由を説明する前にまず、知的生命体が生息する星は何百種類もあるんだよ。この星とそっくりなのもあるんだよ」
「うー…なんで使えないか気になる…」
「あとで言うから!えっとー、それで話の続きをするとこの星とそっくりな星、地球という星だよ。本当にそっくりなんだよ。ただ1つ違うのはその星の知的生命体は精霊という知的生命体を目視できないんだよ。しかもあの星は使用できる魔力がゼロ。あの時は苦労したなあ。
それにこの世界は義務教育に間に契約を済ませるのは常識かもしれないけど、地球にはないんだよ?世界って広いよねえ」
「そもそもどーやって違う世界に行くの?」
「【世渡りの魔法】という大精霊の種族限定魔法を使うんだよ。この魔法は魔力消費が一切ないから帰ってこれたんだよ。話は戻るけど、その星によって、その星で使用できる魔力量が違うんだよ。この星は本来の力が100だとしたら0に等しいかな。その星で使用出来る魔力量に応じて、魔素の濃度も変わってくるんだ。魔素濃度が低いから、この星では君は魔法は使えないんだよー残念残念」
肩にポンポンと手を置きわざとらしく慰めるイルフィス。
「残念って思ってないでしょ!!」
そう言い歩は肩に置かれた手少しだけつねる。
「痛い痛い!分かったってばー」
そう言い部屋の隅っこに避難するイルフィス
「でも待ってよ、魔法は魔力を使って出すんでしょ?魔素濃度なんてなんで関係あるの」
「お!いい事に気づいたね〜。うーんでもこればっかりは言語化するのが難しいんだよね。うーん…魔素が無いとこで魔力を撃ったらとりあえず危険なんだ。魔素は酸素みたいなもの。魔力が血液のようなもの。酸素がないとこで血液は回らないでしょ?どちらか一方ではダメなんだよ。」
「ふーん…そうなんだ。あと気になってたんだけど、前に他の精霊さんから聞いたことがあって、契約できるのはこの世界では1人だけって言ってたけど、他の世界じゃいっぱいできるの?」
「うん、そうだよー。その星で使用出来る魔力量によって人数は変わってくる。魔法もだよ。
例えば、【ファイヤ】」
そうイルフィスが言うと、イルフィスの人差し指から1センチ程度の炎がちょこんと出た。
「ええ!!魔素濃度が低いここでは危険なんじゃないの?!」
そう言いイルフィスの炎をふーっと息を吹き消そうと試みる歩
「普通はそうだね。でも私は大精霊、魔力の扱いには慣れてるの、多少強引に使ってるんだよ」
歩の姿を見てイルフィスは微笑みながら答える。
「へえ…じゃあイルフィスは酸素がなくても血液を無理くり回らせてるのか。」
「あくまでそれは例え話だよ?」
「分かってるよ…って今思ったんだけど、耳の大精霊なのに炎が使えるんだね」
「使えるよー!まあ話すと長いからそこはまた言うね。そんな事よりほら、遊びに行こう?今日は天気がとてもいいんだよ」
歩の手を握り外へ連れ出すイルフィス。
そして2人は時間が許す限り思いっきり遊んだ。
ー数日後ー
2人は山の頂上に来ていた
「ここの空気っていつ来ても美味しいよねえ」
「私もそう思う!夕日も綺麗だしね!」
そして沈黙になり、2人はじっと夕日を眺めていた。ふと歩はイルフィスを見る。最近一緒に遊んで、気づいたことがある。
「イルフィス。」
「ん?どうしたの?」
こてっと首を横に傾げるイルフィス。
「僕、イルフィスが好き。だから将来は結婚するんだ!」
歩はまだ子供だからこそそれは嬉しそうに語る。
「…わ、私も…」
そう言うとイルフィスはそっぽを向く。照れ隠しだ。
「ヒュー、ったくこっちが見てて恥ずかしいぜ。」
「誰だ」
イルフィスが低い声で違う声がする方へ問う
「誰ってそりゃ治癒の大精霊レヴェン様に決まってんだろい。そっちの僕ちゃんなら分かると思うけどな」
声のする方を見ると身長が180センチ以上はある屈強な男の人がそこに立っていた
「治癒の大精霊は大精霊の中でも高位の存在って聞いたことあります。あと、僕は佐々木希です」
「そんなことよりレヴェン、一体何しに来た。」
イルフィスは彼に武器のようなものを向けていた。形しかわからないが、銃のような銃じゃないようなものだ。
「何しに来たって…1番イルフィスがよくわかってんだろ。僕ちゃんをもらいに来た。」
そうレヴェンが言う、一般市民の歩ですら分かるほどの殺気をイルフィスは出す。だがレヴェンはそんなイルフィスに構わず言う。
「僕ちゃんよー、俺と契約しないか?俺は治癒の大精霊。お前の目なんざ一瞬で治るぞ?」
「でも僕はもう契約しちゃったんだ」
「そうなのか?じゃあ契約を取り消せばいいじゃねえか。この星は魔素濃度が低いから契約取り消しは比較的体の負担が少ねえだろ。俺の元に来ないか?」
軽い口調で歩へ問いかけるレヴェン
「でも僕は」
「今はこいつの恩恵があるから満足してるって言いてえのか?そうか。でも色彩感覚は無いんだろ?それに声を出してない時は見えねえじゃねえか。不便で仕方ねえな」
声を弾ませながらそうレヴェンは言う。
そして歩はイルフィスを見る。
彼女はもう銃器を下ろしていた。
歩は彼女の顔を見る。どういう表情をしているのかはさっぱり歩には分からなかった。
そしてイルフィスは震えた声で言う
「私は、歩くんが望むなら…」
歩は最初から答えなんか決まっていた
「レヴェンさん、僕は契約しない」
頑固たる意志がそこにはあった。
「…同情か?それなら」
「違う!僕は目なんか見えなくたっていい。だってこの見え方だからこそ、イルフィスと繋がりが感じられて幸せなんだ。」
「でも歩くんの目が治るなら私は」
「関係ない!イルフィスが契約を嫌だって言っても僕は絶対に契約を打ち切らない。だって僕たち結婚するんだもん!」
歩はイルフィスに名一杯笑って見せる
「ぅう…歩ぐ…ん」
「うわああ、ちょっと泣かないでよ」
歩はぎこちない動きで彼女の頭を撫でる
「…うははははははは!!いいなあ…いいぞ気に入った!!今度困ったことがあれば呼べよ。このレヴェンさまが力になってやるぜ」
豪快に笑うとレヴェンは歩に近づきわしゃわしゃと頭を撫でる。
「分かったよ…ってもう帰らなきゃだ。ごめんイルフィス。先に帰るね。また明日ね!」
そう言うと歩は急いで山を降りた
______________________
ーイルフィス視点ー
「ヒュー、ったくこっちが見てて恥ずかしいぜ。」
「誰だ」
嬉しさのあまり警戒を怠っていたイルフィスは自分を憎む
「誰ってそりゃ治癒の大精霊レヴェン様に決まってんだろい。そっちの僕ちゃんなら分かると思うけどな」
こいつはレヴェン。知らないはずがない。私が何かするたびちょこまかとやってくる腐れ縁の知り合い。そして他人のものをすぐ欲しがるクズ。
「そんなことよりレヴェン、一体何しに来た。」
イルフィスは自分の主要武器を突きつける
「何しに来たって…1番イルフィスがよくわかってんだろ。僕ちゃんをもらいに来た。」
そういうと薄々勘付いてはいたが、いざ言葉にされると怒りで前が見えなくなる。
イルフィスは無意識にスキル『威圧』発動する。
こいつ…一丁前に昔より強くなってる。
このスキルは格下にしか通用しない。昔は通用したのに…。
そうしてる間にもレヴェンは勧誘する。
「でも僕は」
「今はこいつの恩恵があるから満足してるって言いてえのか?そうか。でも色彩感覚は無いんだろ?それに声を出してない時は見えねえじゃねえか。不便で仕方ねえな。」
レヴェンが発する言葉一つ一つがイルフィスを地獄へと叩きつける。
でも歩くんの目が治って欲しいのは事実。でも歩くんとは絶対に離れたくない。絶対に。
私は彼が大好きだ。だからこそ、自分の身勝手な思いを客観視し、恥ずかしく思う。
そして思った。レヴェンが彼には必要なんだと。
「私は、歩くんが望むなら…」
私は今どんな表情をしているのだろう。しっかり笑えているだろうか
「レヴェンさん、僕は契約しない」
嬉しかった。
イルフィスはただただ嬉しかった。
「…同情か?それなら」
「違う!僕は目なんか見えなくたっていい。だってこの見え方だからこそ、イルフィスと繋がりが感じられて幸せなんだ。」
「でも歩くんの目が治るなら私は」
「関係ない!イルフィスが契約を嫌だって言っても僕は絶対に契約を打ち切らない。だって僕たち結婚するんだもん!」
「ぅう…歩ぐ…ん」
嬉しさのあまり、泣いてしまった。
それ程嬉しかった。本当に、嬉しかった。
そして知らぬ間に話は終わり、歩は帰ってしまった。山の頂上で2人は残されていた。
「本当に最高なやつだなあ…お前の契約主は」
ケタケタと笑いながらレヴェンは言う。
「なんで彼なの」
「最初はな?魂が目的だったんだ。だってめっちゃ綺麗じゃん。あんなに綺麗なやつ、俺は見たことが無いな。ましてや目が見えるようになってからは以前の倍だぞ?前ですら綺麗だったのに。
だから完全に見えるようにしたらもっと綺麗になるかなーって思ったけどダメだったな」
悔しそうな顔をレヴェンは浮かべた。
そしてニヤリと笑う
「あーこの俺様が能無し大精霊様に負けるなんてなー」
「能無し…ね」
「最強が能無し扱いたあ、この世界。聞いて呆れる。あ、世界は悪くねえか。お前が意図的に能無しになってるだけだもんな?。」
イルフィスは目を鋭くさせる
そして白々しく答える。
「なんのことだか私にはさっぱり」
「おい、忘れたとは言わせねえぞ。そもそも最後に会ったのいつか覚えてんのか?」
「うーん、100年前?」
「バーカ1600年前だ。どこの星だっけな?あそこで大暴れして星を破壊させたのはどこのどいつだ?」
額に青筋を浮かべながら答えるレヴェン
そして口がひくついていた
「さーね?誰だろ」
「てめえ位しか出来るやついねえんだよ。破壊したら後処理くらいしろ。あの後俺があの星の神に直々に怒られたんだぞ?壊した張本人はとっとと別の星に行っちまうし。
ったく、治癒の大精霊に何が出来るってんだ。それにしてもお前、なんで自分を弱くしてんだよ」
「……強すぎたからだよ。みんな逃げて行っちゃうんだ。だから力をある程度封じて生活すれば良いかなって思ってたら封じ過ぎちゃってねー。逆に私を軽蔑するんだよ」
「じゃあまた封じるのを辞めて、また封じなおせばいいじゃねえか」
「そうかも知れないけど、もういいの。なんかもう嫌になっちゃって。異端児は嫌われる世の中に絶望しちゃって。どの星もだよ?笑っちゃうよね。みんなで手と手を取り合う世界なんて一つもなかった。そんな時に彼に会ったのんだ。魂こそ汚いけど、心が綺麗だったの。上部しか見ない奴らと違って。あの子を見た瞬間、失礼かもだけど記憶を覗かせてもらったんだ。言わないけど、それはそれは酷かった。他人を恨んでもいいはずなのに、恨むどころか自分しか責めないの。他人に責任を押し付けないその心の清さに心惹かれたんだ」
「ふーんそうかい、契約主はいい子だけど精霊の方はどす黒いってわけか」
「は?」
殺意を剥き出しにするイルフィス
「だってそうじゃねえか。スキル『威圧』で他の精霊を寄せ付けてないのはどこのどいつだよ。」
「そうだ、なんであんたに『威圧』が効かないのよ。昔はすぐ怯んだくせに」
「俺はな?きちんと鍛錬したからだよ。もうレベルもカンストしてんだよ」
ふふんと鼻を鳴らしながら答えるレヴェン。
「あんたもうそんな強くなってたの?…私も鍛錬しないと」
「俺としては、これ以上強くならないで欲しいな。」
「…てことはあいつは精霊の中で1番最強になってる?」
「あーそうだな。あいつは昔からお前と同じくらい強かったしお前と違ってきちんと鍛錬してるしな」
「あいつのスキルって本当反則級に強いよね。…本当、これしてやりたいくらい」
「やめとけ。今のお前じゃ2分あればやられるぞ」
「逆に2分は持つんだ。」
「あったりめーだろ?お前レベルはカンストしてないとはいえ強えんだから。まあでもあいつには勝てねえな、あの目の大精霊にはな」
「そんな事はわかってる。だからこそ私が彼を守るの。あいつに取られないために」
「ハハ、それは安心しな。あいつは誰の下にもつきはしねえからな。てかそれよりお前裏の顔でてんぞ?あ僕ちゃんの前で裏の顔出すなのよ?こんな戦闘狂なんてな」
「…気をつける。てか戦闘狂じゃ無いから」
そう言うとレヴェンのすねをイルフィスは思いっきり蹴り上げた。
「いってええええええ!!何すんだよてめえ!!お前を戦闘狂って言わなかったら誰を言うんだよ!!ってそうだ。こっちにくる前にあいつに会ってお前に伝言を頼まれてたんだ。」
「あいつが?…珍しいね」
「『彼をに男を近づけるな、それが破滅の始まりだ』だってよ…これ聞いて思ったんだけどよ、あいつって男色なのか?」
レヴェンは申し訳なさそうな顔をしながら言う
「な訳ないでしょ!!なんで男色ってことになるの?!」
「だってよ…男に気を付けろって…そう言うことだろ??」
「違うから!私と言う女がいるんだから!!」
イルフィスの胸をポカポカと叩く。側から見ればその様はカップルがいちゃついてるようにしか見えないが。実際はポカポカというよりはドスドスだ。
「ちょ…痛い…割とガチで…。」
「あ、ごめんなさい、つい。それよりも、ついにあいつのスキルが狂った?」
レヴェンは自分に治癒魔法をしながら答える。
「いやそれは無いな。あいつの『未来視』は当たる。それにしても破滅…か。不吉にも程があるな」
「本当だよ。でも、歩くんは私が守る。」
イルフィスの目に強い意志が宿る
「…本当に、好きなんだな。」
「もちろんだよ。…レヴェン、私はそろそろ帰るね」
「そうか、一応俺も僕ちゃんの事を見守っててやるよ。まあ暇だから俺は別の世界でも行こうかなあ」
「そう。2度と帰ってこなくていいいよ」
「ハハ、そんな冷たいこと言うなよ。」
「じゃあ、いくね」
そしてイルフィスはこの場から立ち去った。
______________________
ー9年後ー
「イルフィス!遅いぞ!もう先行ってるからな!!」
「ちょっと待って!」
2人は今高校へと登校していた
「改めて思うけど、成長したね歩くん!一人称も俺になったって…。あの頃の可愛い君はどこにいっちゃったの?」
肩をツンツンしながらイルフィスは言ってくる。
「はいはい分かった分かった。それを言うならイルフィスもだろ。昔はあんなに小さかったのに今は…普通の女子高生みたい」
「私は歩くんに合わせて身長をいじってるの!いい彼女でしょ!」
「はいはい最高の婚約者ですねー」
そんな無駄口を叩きながらいつも通り登校する。
幸せな日々が続いていた。
だがその時だった。
いつも通り信号を待っていた。
そして信号は青になる。
そして歩は渡ろうとした。
「歩くん!避けて!!クソ…なんで魔法が効かないの!?!?」
そんなイルフィスの声が聞こえ、横を見たその時。
________ドンッ________
佐々木歩の人生は、幕を下ろしたのだった。