乱れ雨
いつまでつづくか
3000年降り続いた雨がようやく上がり、空に新たなる星々が輝いた。赤黒い大地は蒼い草原に変わり、幾千の血だまりは海原となった。ようやく起き上がった「それ」は、やがて分かれては集まり、集まっては分かれながら、地の底から湧き出でていった。
かつてこの星を覆いつくしていた巨大な文明はその持ち主もろともに眠りについた。新たなる命は、屍を踏み超えて、また空へと向かった。高い木々が地上を覆いつくしたころ、「それ」の一つは陸に上った。海に生まれた者どもは、やがて地の底から這い出て、遠くへ吠えた。
幾億の時を超えて、「それ」は立ち上がった。天は騒ぎ出し、地は狂ったように踊りだした。立ち上がったそれらは、数万年の間に地上を埋め尽くさんとした。彼らが立ち上がって最初に手にした金色のはたとともに。しかし、立ち上がった者ども――人――は新たなる永い永い戦いを始めたのだった........。
第一次古代遺物戦争。のちの世でそう呼ばれることになるこの戦争は、六つの大陸全てを巻き込んだ最初の、そして、永いこの星の歴史で幾度となく繰り返されてきた、戦いであった。この戦争の原因こそ、先の巨大文明が遺していった「遺物」であった。
人類歴00年。初めての遺物が北の果てで発見されたその年から、人類は暦を数え始めた。というのも、その遺物は発見されて間もなくして、時を刻み始めたのだ。この「時の遺物」の発見と同時に、新たなる人類史が始まったのである。それまで石斧で獲物を狩っていた人類は最初、その遺物が持つ役割も、意味も理解しえなかった。しかし、遺物を発見した集団の子孫たるオイタルは、時計の意味を理解した。そして人類歴73年、オイタルはその頭脳とカリスマにより北の大陸に初めての王国を築いた。
オイタルの出現より数世紀、人類歴252年、二つ目の遺物が今度は南の果てで発見される。それは、10尺はあろうかというほど長く、そして軽い金属の板だった。この発見からさらに数世紀、「遺物」の話は山を越え、海を越えて各地に広がった。各地で遺物が発見され、多くの場合、遺物の発見者はその遺物の力で国を築いた。
世界各地で王国が所狭しと築かれ始めたころ、人類歴752年のことだった。南の大陸で、「火を吐く遺物」を持つ国が、隣国に侵略戦争を仕掛けた。それは、遺物を持つ国同士の初めての全面戦争だった。「火を吐く遺物」の国と「七つの刀」の国との戦いは、これまでにないほど凄惨であり、戦禍は数百年の間続いた。
戦いの火は周辺国にも飛び火し、南の大陸は一時、全てが焼け野原に帰した。しかし、畏き者イグアスが戦争を終結させ、南の大陸は世界初の国家連合を成した。「南の大禍」と呼ばれたそれへの恐怖により、遺物国家どうしの戦いは、避けられるようになり、10世紀もの間、平和が保たれた。
しかし、やがて人々は、「南の大禍」を忘れ、世界各地で、遺物の奪い合いが始まった。そうして、人類歴1936年、血みどろの第一次古代遺物戦争が幕を開けた。
風が吹き荒れる
その場所でもまた、戦いが始まろうとしていた。朝の太陽を背に獣を繰り、10尺の矛を携える騎乗の大男の名は、ガイデンといった。東北の国イサキの防人の大将である。対する西側には、蒼い鋼の刀を携えた大男が、太陽をにらんでいた。黒い眼光は眩しさを跳ね返してなおも黒く輝いていた。この男こそ、西の国ハリクの守り神、ヒキナミであった。
お互いに遺物を持つイサキとハリクは、いつも互いを侵略せんとして国境で小競り合いを続けていた。今年の夏も、例年の如く、国境の平原で、両者はにらみ合った。ガイデンの持つ矛は、イサクが持つ遺物のうちの一つである。強力な磁力を持つこの矛は、持ち主の操作で、金属をはねのけるも吸い寄せるも自由自在である。刀槍が主武器であるこの戦場で、ガイデンの武器は強力無比なものであった。一方のヒキナミが持つ蒼い刀は、何よりも固く切れぬものはないという遺物であり、さらに、磁性を持たないという、ガイデンの持つ遺物を無効にする遺物なのであった。
遺物の相性もあり、毎年決着のつかないガイデン、ヒキナミ両者はもう10年も総大将として激突を繰り返しては冬になって退く、ということを繰り返していた。10年も戦を繰り返しても、遺物持ちどうしの一騎打ちになってしまうこの戦では、負傷者も少なく、死者も数えるほどだった。今日も戦が始まろうとしていた。
わからない