潜入、妖精の森
「妖精たちの自然に寄り添ったピュアな生活を見て貰おうと思ってな」
そう言って博士は茂みを掻き分けて行く。
僕はついている。転生者でありながら大した能力はなかったが、今はこうして研究者と共に冒険のような事が出来ている。
剣や魔法は使わないけどこっちの方が僕の性に合っている。自然の中で未知の生物を捜し歩く、僕が前世で何より望んでいた事だ。
「妖精たちは独自の言語を使う。始めは驚くかもしれんが直ぐに慣れるよ」
「はい!」
美しい渓谷を抜け苔むした岩山を抜ける。途中の沼地でヒルに噛まれたけれど、博士の治療のお陰で出血も収まった。
思ったより過酷な旅だったが乱暴な戦いよりもずっといい。
「さぁ着いたぞ、ここだ」
そこは神木のような巨大な老木と、その幹の穴にドールハウスのような物がいくつも並ぶ不思議な空間だった。
「おお、これはこれは……。良くいらっしゃいました」
すると僕たちの気配を察したのか小さな家の中から更に小さな人が出て来た。その背中には羽が生えている。妖精──、ほんとに居たんだ。
僕が感動に胸を震わせていると、家の中からいくつもの声がした。
「ほら、学者さんが来たわよ。あんたたち、ちゃんとサービスなさい」
「えー、ちょっと待ってー。今カレシとラインしてるしー」
「あのおじさんヤダー、臭いが無理ー。ファプリーズしてよぉ」
「……え」
それはどこかで聞いた言葉(主に前世)で、この場に似つかわしくない物だった。
「驚いたかね、言語体系はほぼ同じなのだが聞き慣れぬ単語を使っているだろう」
「は、はい……」
そして僕たちは荷物を降ろし、しばらくその場に留まる事になったが……。
「この子ったらゲームばっかりして、また課金してるの?」
「俺がバイトで稼いだ金だ、何に使ってもいいだろ」
「うわー、ゲーマーだ。廃人だー」
「うるせぇ! ケッ、女はいいよな。エンコーで金が稼げて」
「そんなのする訳ないでしょ。何よ、母さんまでそんな目で見て!」
「ねー、この家飽きたー。シルバニ○ハウス買ってー」
うんざりして視線を落すと幼い少女の妖精が熱心に本を読んでいる。子供はどんな環境に居ても純粋なものだ。
ソッと本を覗いてみると、それは……BLだった。
「お兄ちゃん、攻め? 受け?」
「……は?」
ゲンナリした気分で帰途に着く。
途中、博士が嬉しそうに僕に尋ねてくる。
「どうだった? 妖精たちの村は。素朴でピュアで美しかっただろう」
博士……、ピュアなのはあなたの方です。