01 一目惚れ。
ハロハロハロウィン。まだ早いか笑
ちょっぴりホラーが入りますが、
基本イチャラブしている物語です。
20190723
君の手は、冷たいのに
心は、あたたかい。
私の手は、あたたかいのに
心は、冷めている。
正反対の私と君。
君の隣に居たい。
君と手を繋ぎたい。
ずっと。ずっと。
私が一生愛する人。
君の傍に居られるならばーーーー。
いつも、どこでも、私は冷めてた。
呆れたり、すぐ興味を無くしたりして、知らんぷりする。
何もかもが、つまらない。何もかもが、殺風景に視えた。
何もかもが、違う。
上の空で、頬杖ついて無表情で机につく。
友人と笑いあおうと、やっぱり冷たい私がちゃんといた。
笑っているのに、冷めた私が心の奥にいる。
全てに価値がないと見下す私がいるんだ。
私は冷たい人間。心の冷たい人間。
それなのに、手は誰よりあったかかった。それが時折、鬱陶しいと思うんだ。
そんな私は、なりたい自分になりきって生活していた。
なるべく、愛想よく周りに接する。暗い話はしない。悪態はつかない。誰かの目の前では、泣かない。
そういう性格になったのは、長女だからだろうか。妹が一人、弟が二人。でも親は、母が一人。父親なんて知らない。いないものは、いないのだ。
母は社交的で、明るい人だ。顔立ちも整っている。その遺伝子を継いで、私もそこそこ美人だ。だからって、特段人生が輝いているわけではなかった。
私の目にする世界は色付いていない。そんな気がする。
ギリギリな生活の母子家庭に気を遣い、高校は夜間の定時制を選んだ。単に勉強が好きではなかったことも大きい。高卒の証明書だけは手に入れようと思ったのだ。母には特に相談しなかった。元々、面倒を見る子どもが多い母に気を遣い、学校のあれやこれは自分で片付けていたから。
名前は、茜。おかげで赤色は大好きだ。
冷めた自分に似合わない情熱的な色。
肌寒い夜の日。
夜間の学校で、やっぱり私は冷めた顔でボケッとして教室にいた。
転校生が来たとか騒いでるけど、上の空。
怒らさないように、適当に友人に相槌を打つ。何を話してたかなんてもう忘れた。
二年生になっても、私はバイトにつけていない。バイトの面接を初めて受けて、見事落とされた。緊張一杯で、なんとか笑みで耐えて乗り切ったつもりだったのに、落とされてはショックだ。
ずるずると引きずって、怠慢な日々を過ごしていた。
わりと自信過剰だったのかもしれない。美人で愛想のいい私を落とすなんて、とショックだった。まぁついこの間まで中学生だったことが、原因だろうけど。
この学校は、昼間に普通の高校生、全日制が通っている。でも私が通うこの定時制は、私の一個下で最後になるそうだ。
教室は、二階。全部で四学年いる。階段を挟んで、四クラス。
私は階段の隣のクラス。一人用の机は、空きが多い。だから、この定時制がなくなるんだけれども。
私と友だちは、いつも窓際の前の席に座っている。
冬の時、ストーブに温まるためだ。私は寒がりだから、夏の始まりでも今から陣取っておかなくちゃ。
寒いと言えば、今日だ。肌寒い。薄手のパーカーの袖を伸ばして、手を覆う。
なんでこんなにも、今日は寒いのだろうか。昼はそれなりに暑かったのに。
そんなことを考えていたら、教室が静まり返ったことに気付く。
隣の席の友だちが黙った。見てみれば、黒板の方に釘付けだ。
正しくは、彼。彼に、皆が注目していた。
転校生だ。
ゾッとするほどの美しい少年だった。プラチナブロンドという髪だろう。
離れていてもわかる。瞳は青だ。肌は色白。西洋風の顔立ち。恐ろしいくらいに、整っている。まるで、モデルか俳優さんのよう。
胸が高鳴った。
ここにいることが、不思議な存在。そして美しい。
そんな彼が、私を真っ直ぐに見つめていた。南国の海のように青い瞳。どこか嬉しそうに微笑んでいる。
胸が熱くなった。
慌てて背けた私が次に目にするのは、夜の窓に映る自分。
美人だと自負していたけれど、彼と比べたらどうだ。見つめ返してしまったことが、恥ずかしい。
けれども、彼の顔がまた見たくて堪らなくなる。
でも、また目が合えば流石に顔が林檎のようになってしまうに違いない。
「……どうも、水梛です。よろしく」
教師に指示される前に、彼は名字だけ名乗った。
ハッキリと、後ろの黒板に届く声。その声にまた心臓が跳ねる。
うっとりしそうな声。
つい顔を上げたら、彼はもう私を見ていなかった。首には黒のネックウォーマをつけていて、白のVネック型の薄手の上着、中には水色のシャツを着ているみたいだ。ジーンズ姿。至って普通そうな格好なのに、モデルの撮影ではないかと疑ってしまう。
隣の友だちもやっぱり彼に釘付けで、彼はそんな友人を見向きもしないで横を通りすぎて、一つ後ろの席で向きを変えた。
また心臓が跳ねる。
心臓が止まるかと思った。
え? どうして……?
彼は私の真後ろの席に座った。
他にも席は空いてるのに、なんで?
異様な緊張に身体が強張った。
お腹が鳴ったらどうしようとか、髪型大丈夫かなとか。
そんな心配がぐるぐる頭の中で回っていく。
でも、ふと落ち着いた。
大丈夫だ。
彼と私がどうなるわけじゃない。
気にすることない。
ただ綺麗なイケメン転校生が後ろに座った。そう絶世の美少年ってくらいのイケメン転校生が。
それだけだ。
ほら、いつでも冷めてる。
とりあえず、冷めた私のおかげで、心臓が爆発せずにすんだ。
そうだ、どうもしない。
そう思ったけど、すぐにその予想を彼に裏切られた。
「……ねぇ」
後ろから聞こえてきた彼の声。
ウソでしょ?
空耳だ、そう決め付ける。
だけど振り向かずにいられなくって、つい振り向いてしまった。
そこには、青い瞳で笑ってる彼がいる。キラキラと光るサファイアみたい。
無邪気そうな笑顔に、また胸が苦しくなった。キュンって締まった感じ。
「よろしく」
そう言う彼に返事しなきゃって思ったけど、間近すぎて口臭とか気になるし、頭がパンクしそうで頬が熱くなるのを感じた。
「……うん、よろしく」
目を逸らして口に手を添え、一応笑顔を作って答えた。
「水梛 璃。君は?」
「あ、越前、茜」
彼の青い瞳から目が放せなくって、ぼんやりした声で名乗る。
相手も見つめるような瞳で、口元に笑みを向けたまま黙ってる。
「ウチは矢田部瑛美」
隣の友だちが割るように入って名乗った。
「よろしく」
礼儀よく彼女にも笑みを向けてくれたおかげで目を逸らせた。
体勢を戻して前を向いた。これは不味い。
この心臓の異常な跳ね方。熱くなる頬。
目が合った瞬間。
前にも味わったことがある。
前は気付くのが遅かったけど、学習したせいですぐわかった。
彼に一目惚れした。
堪らないぐらい一目惚れしてしまった。
彼の声で耳が焼けるように熱い。
彼の笑顔で顔が熱い。
彼の瞳で心臓が飛び出しそう。
冷たい私が熱を帯びた。