まずは現状確認
「これは一体どういうことなんだ……?」
聖剣を使った僕は死んだ……はずだった。
けれど僕は目覚めた。生を実感して歓喜するのは当然だった。死を覚悟していたとはいえ、死ぬのがいいってわけじゃない。
またみんなと会えるんだ。そう思うと涙が止まらなかった。
涙を拭おうと手を目に当てる。
そこで気づいたんだ。なんだか自分の手が肉厚なことに。
ケガでもして腫れてしまったのだろうか。そう思って自分の状態を確認した。
その体は、明らかにさっきまでの僕のものとは違っていた。
着ていたはずのミスリルの鎧はなく、粗雑な皮の鎧となっていた。
それどころか腕や脚の肉が厚い。引き締まった筋肉ではなくぶよぶよした感じだ。
腹なんかは戦いに身を置いた者とは思えないほどに出ていた。どれだけの贅沢をすればこんな腹になるのだろうか。
ここまででも自分とは似ても似つかないことがわかっていた。でも、一筋の希望にすがった僕は自分の顔を確認せずにはいられなかったのである。
嫌な予感はあった。見える範囲でもここまで自分の体が変わってしまっているのだ。むしろ確信していたと言っても過言じゃないだろう。
それでも、それを見た時にショックを受けずにはいられなかった。
魔法で簡易的な鏡を作り出す。問題なく魔法を使えたことにほっとする。
でも、ほっとしたのはここまでだった。
その鏡に映っていたのは、慣れ親しんだ僕の顔ではなく、ブタ顔のオークのものだったのだから。
※ ※ ※
まずは現状確認が必要だ。
辺りは魔王城の残骸らしきもので埋め尽くされていた。聖剣で半壊させたように見えていたけれど、そのまま耐えられなくなって全壊してしまったのだろうか?
周囲を見渡してみるが魔王の姿どころか気配すら感じられない。これは完全に逃げられたのだろうな。
聖剣でかなりのダメージは与えていたのだ。そのまま消滅してくれるのが一番良い結果だろうが、そううまく考えるべきではないだろう。わからないことなら最悪の事態を想定しておくべきだ。逃げられたのならなおさらに。
魔王はともかくとして、魔物の姿も見えない。城にいた魔物どもはどこへ行ってしまったのだろう? まさかこのガレキの下敷きになっているとか。これは仲間と合流してから考えようか。どっちにしても今はいないことがありがたい。
空を見上げれば太陽がてっぺんにあった。昼間らしいが、どれくらい気を失っていたのだろうか? 魔王城に入る前がちょうど今くらいの時間帯だったはずだ。少なくとも丸一日は経過したと考えた方がよさそうだ。
さて、周りを見てわかるのはこのくらいか。
一番の問題である僕の体について考えなければならないだろう。
確認に確認を重ねた結果、やっぱりどこからどう見てもブタ顔のオークが僕の体みたいだった。信じたくはないが事実は受け入れるべきだろう。
二メートルほどの巨体で、この贅肉たっぷりな腹を見れば体重もかなりのものだろうというのがわかる。
ブタ顔で、牙がある。一般的なオーク顔だ。
どうしてこんな体になったのかわからない。でも、このオークには見覚えがあった。
それはあの時、魔王に向かって聖剣を放った時である。
あの時、魔王の前にオークが盾になるように割り込んできたのだ。その時のオークに見えるのだ。
オークなんてみんな同じ顔に見える。だけど、このオークだけは間違えないのだと、理由はわからないがそう思ったのだ。
僕はあのオークと体が入れ替わったのか?
そう考えて僕の身体を探したけれど見つからなかった。
やはり聖剣を使った代償で僕の身体は死を迎えてしまったのだろう。それで体が消滅した代わりにこのオークの体になった、と。
「いやいや、わけがわからないよ」
死んだからって魔物になるのか? そんなバカなっ。そんなバカなことがあってたまるか!
魔物と体が入れ替わるなんて聞いたことがない。そんなの教えてもらってないし、伝説にだって記されてない。
でも、今現在僕の体はブタ顔のオークなのだ。それが現実なのだ。
「……受け入れるべきなのか」
いくら考えたって僕の体は帰ってこない。
そもそも僕は聖剣を使った時に死んだはずだったのだ。体が違うとはいえこうやって生きている。それはとても幸運なことじゃないか。
アデリーナ、パウラ、トワネット。またみんなと会えるのだ。こんなに嬉しいことはない。
体は変わってしまったけれど、志を共にして戦ってきた仲間達なのだ。話せばすぐに僕だと気づいてもらえるはずだ。僕達の絆は体が変わってしまった程度で揺らぐものじゃあない。
そうと決まれば早くみんなに会わなきゃ。
たぶんみんなは近くにいるはずだ。近くじゃなくても一番近い町に向かえば会えるだろう。
よし、じゃあまずは仲間達と合流しよう。そして僕のことや魔王を取り逃したことを伝える。これが僕がまずやらなきゃいけないことだ。
行動が決まったので早速僕は動き出した。




